でも私はちょっと変わっていまして、反対する人が多ければ多いほど成功すると思えるんです。エジプト学を始めた時もみんな反対した。エジプト人女性と結婚した時もみんな反対だった。でも結果的にはみんなうまくいったんです。エジプト人女性とは離婚したけれど、ケンカしたわけじゃなくて今でも仲良くしていますし。
その時私は、教育は産業だと言ったんですよ。産業の中でもサービス産業だと。研究が原材料で教育は販売です。授業の1コマ1コマを一つの製品と考えて、きちっとした製品を出していかなければなりません。調査研究という仕入れを行って、それをちゃんと製品化して売るという姿勢が大切です。それは今でも変わりません。
だいたい文部科学省の科学研究費は、文系だと多くても1千万円、少ないと300万円程度です。それに対して発掘調査は膨大にお金がかかる。現地では作業してくれる人を雇いますから、人件費だけで1週間に何十万円も必要なんです。しかもスタッフ十数人分の飛行機代、宿舎代、現地の研究所の1年分の家賃も必要になります。それらをトータルで考えたら、これは事業と考えなければ成立しませんよ。
でもそうやって続けてきた結果、エジプト学は今では外国考古学の中で最も活発に活動している学問分野になりました。今、若手の研究者が優秀な論文や報告書を書いているのは私の研究所だけだと自信を持って言えます。
なぜなら今の大学のシステムでは弟子を持っていられない、若手を育てることが難しいんですよ。経費節減で先生1人に1人の助手がつきません。弟子を育てようにも就職させてあげることができない。だから弟子を作らない。勝手にやる一匹狼(おおかみ)ばかりで、我々のように研究所を持って、そこに学部の学生、修士課程の学生、博士課程の学生、オーバードクター、講師、助教授、教授とヒエラルキーを作っているのはここだけです。それでも限界が来たので、今度は自分で大学を作っちゃったわけですが。
そう、つまり弟子の就職先を作ったということです。これがあれば、これまでの研究成果や人材を流失させないで自分のところでやっていけます。研究所としては発見の質と量でも世界のトップだという自負もあります。

エジプト学という学問・事業への投資です。この40年間でおそらく100億円は使っていると思います。半分の50億円くらいが発掘費用で、残りの50億円くらいが弟子の育成費用です。この研究所を維持するのに現在でも毎年1億円くらいかかります。1回の発掘調査には2千万円程度必要になるんです。この1億円に対して国からの補助は年間1千万円程度。その他、企業からの援助金が1千万円程度。だから自分たちで7千万〜8千万円は稼がなきゃいけない計算です。
母です。小学生の時にエジプトに行きたいと言ったら、いつ行くのとあっさり答えてきた。社会人になってエジプトに永住しようとした時も、ピラミッドにお婿にやったと思ってあきらめるから財産を先にあげるよと言ってくれた。だから僕はそのお金で、現地で働かなくても研究に打ち込むことができたんです。「世の中は少し損をしながら生きるといい」とか、「幸運の女神は前髪しかないので、通り過ぎる前につかまえるしかない」とか、「誰も見ていないと思っても神様は見ている」とか、母親の言葉は今もメモして繰り返し見ています。
なんと言っても「ツタンカーメン王のひみつ」です。著者はハワード・カーター。小学校4年生の時に図書館で借りて読みましたが、一番感動したのはこのハワード・カーターの生き方でした。ゼロから発掘事業を立ち上げた人なんです。後年、私の弟子がこの本を持っているのを知って、無理を言って譲ってもらいました。もう稀覯(きこう)本で、長い間手に入らなかったんです。
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