多才の人だ。若大将シリーズで人気を博し、シンガー・ソングライターとしてポップス界で一世を風靡(ふうび)。絵画展は毎回盛況、クルーザーも乗りこなす。かと思えば最新のゲームにも精通、陶芸にも挑戦している。好奇心に磨きがかかる中年の星、加山雄三さんを突き動かしているものは意外にも物理、宇宙への想(おも)いだった。
(取材・文/井上理江)
もともと絵は大好きで、船の設計図や完成図のデッサンはしていました。油絵は81年、夏休みに子どもたちと一緒に描いたのが最初。そのときの作品5点をその後、事務所に飾ってもらったんです。スポットライトの当たる所に置いてみたくて。そうしたら、それが専門家の目にとまって、個展を開催することに。いきなり86点も描いたのですが、それが大好評で。それから毎年、全国各地で絵画展を行うようになりました。
絵画が「静」なら、音楽は「動」。対照的だけれど、それぞれの楽しさがあるからこそ両方大切です。特に絵は、自分が心をこめた一点ものをファンの人が持っていてくれる。それが何よりうれしい。
不思議な縁があって両方とも65歳を過ぎてから始めたのですが、これがまたどちらも奥が深くて楽しい。面白いもので、人間、好きなことをやっているときって光るんだよね。同時に出来上がった作品もまたいいんだ、これが。
子どもが小学生のときからだから、筋金入りのゲーマー。「バイオハザード」は1、2、3、4と全部やってきたからね。まあ、ゲームは反射神経の訓練になるから老化防止にもいいし。なんていうのは言い訳で、単純に楽しいからやっているだけです。
日に日に老いていく中、自分という人間を劣化させないための努力は必要ですから。そのための健康管理であり、演奏や作曲であり、絵でもあり。ただ、もっと単純に、興味を持ったらすぐに行動しないと気が済まないという性分というのもある。やるんだったらとことん究めたいし。特にそういう気持ちが若いときより強くなった気はします。
特にないですが、徐々に年はとっていくんだろうなという思いはある。いつまでも若ぶっていても仕方ないし。ただ、もう決して若くはないと認めることが新たな気づきをもたらしてくれる、そんな発見が最近ありました。これは間違っていたなとか、優しさはやはり生きていくうえで大事だよなとか。
そう。それと、出会いには必ず意味があると思っているので、今まで以上に出会いを大切にするようになりました。
妻でしょう。出会ったことで根本的に人生が変わったから。両親もそう。この親のもとに生まれたことが僕の人生の根底にある。考えてみれば、かつて多額の借金を抱えたことや倒産といった経験も貴重な「出会い」だった。多くの人に迷惑もかけたけれど、でも、今の自分を築くためには必要でした。あのときの苦しみがなかったら、今ごろただの馬鹿野郎になっていたと思います。
たぶん苦しみから逃げないでやってきたからでしょう。逃避していたらそれなりの人生でしかなかった。苦は楽の種、楽は苦の種という言葉を何度となく自分に言い聞かせながら、楽しく生きる努力をしてきたことが今の僕につながっていると思います。
人間はね、思いどおりのことをするんです。「色即是空、空即是色」の言葉どおり自分の思ったことが自分の人生になる。つらいと言って暗い顔をしていたら、それまでの人生。つらさを受けとめながらも明るく振る舞うことで、人生を楽しい色にできる。

1937年神奈川県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後、60年東宝入社。「男対男」で映画デビュー。61年、映画「大学の若大将」に主演し、大人気となった「若大将シリーズ」がスタートした。黒澤明監督の「椿三十郎」「赤ひげ」にも出演。歌手としては65年に「君といつまでも」が大ヒット。以後も「ぼくの妹に」「お嫁においで」など数々のヒット曲を世に送り出す。幼少より作曲を始め、弾厚作のペンネームで作曲も手がけ、数多くのミュージシャンに曲も提供している。96年、初の絵画展を開催。現在は俳優、歌手、画家として幅広く活動。父は俳優の上原謙、母は女優の小桜葉子、妻は元女優の松本めぐみさん。
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