それが全然。それまで多忙で、自分の芝居も今後のことも考える暇がなかったので、これ幸いと充電していました。
当時の時代劇は保守的で、有名作家が書いた原作を有名俳優が演じるものが多く、オリジナルはなかった。だから完全なオリジナルの必殺仕置人は画期的でしたが、有名俳優の方たちは「そんな訳のわからないものはやらないよ」と。私なら何でもやるだろうと回ってきたのがラッキーでしたね。主水役は半分がシリアス、半分がコメディーで、それまでの「てなもんや三度笠」の経験が生きた。家で妻の母親と同居していたこともあり、等身大で役に入れました。
それはありがたいことなんですが、私はもともとお客さんの前で芸を見せる「公開芸人」。40歳の時にテレビの仕事が順調になっても、これから10年はしっかりした舞台を行ない、目の前のお客さんに満足していただきたいと思った。それまでは人が考えてくれた役をただ演じるだけでしたが、今後は本作りから首をつっこんでみたいとも。それでブロードウェーに何度も渡り、ミュージカルを見ました。中でも「その男ゾルバ」は、仕事の関係者から「絶対にお前に向いているから、自分のものにしろ」と言われ、私自身感動し、絶対に演(や)りたくなった。それから勉強し、2年越しで日本での上演にこぎつけたんです。
マスコミにぼろくそに言われましてね。自分でも納得がいかなくて、テレビの仕事の合間に、アメリカで舞台のツアーの追っかけをやって勉強をし直してみると、多くの新しい発見がありました。自分が再演するまで4年かかりましたが、今度は絶賛され、芸術大賞もいただきました。ゾルバを演じたことで私の人生観は変わりましたね。普通の男の人生がいかにドラマチックか、また自然体がどれほどいいことかわかったのです。
例えるなら、私の若いころは何の飾りもない神輿(みこし)でした。ある祭りの年に担ぎ手が余ったので、ほこりを払ってもらい、飾りのない神輿がやっと日の目を浴びて列の最後にくっついていった。翌年以降、「あの神輿は軽くていいから俺たちで飾りを作って担いでやろう」と、年々行列の前に出ていった。すると何を勘違いしたのか、神輿自身がもっと目立つように自分で飾りをつけ始め、気がついた時には重くて誰も担いでくれない神輿になっていたのです。私の飾りとは妻にやらせていたビジネス。飾りをもっともっととつけるうちに身動きがとれなくなり、バブル崩壊ですよ。
妻が自己破産すれば済むことでした。でもそうすると人権が制限されるのでかわいそうで。それまで家のことは妻が守ってくれていたので、今度は私が守る番と、債権者に「逃げずに全部返します」と言い、コツコツと返しました。狭いマンションに引っ越し精神的にも身軽になると、支えてくれる人たちが増えて仕事も順調になりましたね。
以前は75歳で引退しようかと思っていたんですが、昨年、86歳の森光子さんと85歳の塩川正十郎さんと食事したら、おふたりとも猛烈に元気なんです。「藤田さんは若いんだから頑張らないとだめよ」と言われて。おふたりを見ていたら、もう少し頑張ってみようかと思いました。
周囲に恵まれたことはもちろんですが、逃げなかったこと、ひかなかったこと。そして「だらだらと芸の坂道」をあがってきたこと。平坦な道は歩いたことはないし、70歳を超えた今でも、坂道をあがり続けています。
それにまだまだやりたいことがある。「剣客商売」の舞台。「必殺仕事人」も復活し、TOKIOの松岡昌宏くんが主役で私も主水で出ます。来年はB級戦犯の裁判を描く映画を制作予定ですが、舞台でも同じ題材で裏から見た家族愛を描きたい。これも戦死した兄が背中を押してくれているんでしょうね。私自身、孫ができ家族愛の大切さを実感しています。少々遅いけれど若い時に家族を顧みなかった分、何倍にもして返したいという気持ちでいっぱいですね

4年前に着物を作った時に、羽織の裏に孫の顔を大きく染めてもらいました。以前、初代桂春団治が羽織の裏に凝っていたことを先輩に聞いて、見えないところに凝るのは粋だなと思いまして。その羽織を着ると、いつも孫に、しっかり頑張ってねと背中を押されている気持ちになります。
お世話になっているゴルフ場のオーナーです。夜間のゴルフ場を何か活用できないかと、その山肌を使いレーザーショーをやることになったのです。これが凝りだしたらキリがない。1週間に1度関係者を呼び出してはミーティングを行ない、常に演出や設備の見直しをしている。そのこだわりには頭が下がります。
遠藤周作の「どっこいしょ」と、私が演じた「その男ゾルバ」の原作「ギリシャ人ゾルバ」です。前者は戦前戦後の男の一生を描き、精神面でこういう男になりたいと思った。後者はギリシャが舞台ですが、究極のドラマは普通の人間の人生にあると考えさせられました。
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