いやいや僕も成熟してきたからさ(笑い)。あの当時はカッとして、劇評に対する批評を自分で書いちゃった。今は幸いにもいろいろなメディアが劇評を書いてくれるので、それらを集めて自費で印刷して蜷川新聞として劇場で配っていますよ。そうすると、「あら、この新聞の劇評が一番いいわね」「これは駄目ね」とお客さんが批評してくれる。僕も少し利口になったかな。
僕には役者の口説き文句があるんですよ。さっきもジャニーズの二宮(和也)君から電話があったんだけど、「俺(おれ)とお前ともう一人世界級の役者を足して世界を目指そうぜ」と言ったんです。それともう一つ「早くやんないと俺死んじゃうよ」。これが口説き文句です。唐沢(寿明)君なんてその一言で「コリオレイナス」に出演してくれることになって、4月にロンドン公演をやることになったし。「世界」と「死んじゃう」。いい言葉でしょう。
平均年齢67歳ですが、皆一生懸命ですよ。一年間稽古をしてきて皆きれいになっている。男も女もね。清々(すがすが)しい感じです。僕自身は、あの年代グループの一員ではないと思っているんだけど、客観的に見たら当事者なんでしょうね。嫌だなぁ。
年寄りだからといって決して天使じゃないから、けんかもあるしトラブルもあります。転んで骨折しちゃった人もいるし。
でもね、一番の問題は「辞めない」ことです(笑い)。普通若い連中は稽古が厳しくて、途中で何割か辞めていくんです。親に止められたとかいって。ところが老人たちはぜんぜん辞めない。逆に子どもとかお孫さんから礼状をいただいて。「おじいちゃんが元気になりました。ありがとうございます」なんてね。
そう、なんか僕いいことやってるみたい。これが最大の誤算ですね(笑い)。なぜ辞めないのか僕にはわからない。だいたいこれまでは年寄りのクリエイティブな活動のデータがないんです。誰もやったことないから、新しい実験をしているわけですね。
僕はずっとヨーロッパの芝居をやってきた。でもね、地球には南米もあるぜ、ガルシア・マルケスという巨匠がいるぜと思ってずっと気になっていた。だから「よし、のった」と引き受けちゃったんです。巨大な難物だから、やるからには僕は勉強するでしょう。勉強しないわけにはいきませんから。
当初は、この公演は通常の劇場でないところがいいなと思って廃校跡の体育館を探しあてたんですが、建物の構造が演出に耐えられなかった。途中から校庭に出るかと考えましたが、雨が降るとグラウンドがぬかるんでこれも駄目。そこで一度公演を延期にしてしまって、今年彩の国さいたま芸術劇場でやることになりました。
いまだにね、そんなわがままばっかりやっているのですから、興行会社は破産覚悟ですよ。いや、絶対破産だな。

圧倒的に若い才能に投資してきました。僕は新人を抜擢(ばってき)するほうだから。60歳を過ぎたころに藤原竜也君とも出会ったし。演劇を目指す若者たちが集まるニナガワ・スタジオでは、全員で1万円ずつ出しあって足りない分は僕が負担して稽古(けいこ)と公演を続けています。スタッフも皆そこで育った者たちです。
韓国の映画監督キム・ギドクさんです。毎回撮り上がるたびに物議をかもしだす監督ですが、小学校を出ただけで苦労しながら映画監督になった人です。映画監督になる前にいろいろな仕事をしていて、マッサージもできるんですって。来日した時にどうしても会いたくて対談をさせていただきました。その時、僕の手をもんでくれたんです。いい監督ですよ。
そりゃ吉本隆明さんの作品群でしょう。1960年代から70年代にかけて、「芸術的抵抗と挫折」とか「擬制の終焉」とかをむさぼるように読みながら生きる指針としていました。今の僕に少しでも倫理的なにおいがあるとしたら、それは吉本さんの影響ですね。
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