句集としては異例のベストセラーとなった「B面の夏」を引っ提げ、デビューした黛まどかさん。その清楚(せいそ)な美貌(びぼう)からも注目が集まったが、カタカナやアルファベットを採り入れ、恋やサーフィンを詠んだ新しいスタイルの俳句には賛否両論もあった。しかし「B面の夏」の出版より約10年、彼女は現代を鮮やかに切り取る俳句を作り続け、日本の文化や伝統の継承にも熱心に取り組むなど活動の幅を広げ、確たる自らの場所を築きあげている。
(取材・文/田中亜紀子 写真/田中史彦)
ええ。移動が多いので待ち時間を利用して駅のホームなどで始終打っています。原稿も携帯で書いているぐらい。また新しい試みとして、携帯を使った句会をここ数年四季折々に行なっています。全国の会員が、それぞれの場所にある桜の木の下に立ち、句を詠み携帯でリアルタイムで送り合うんです。
句会は「座」の文学といわれ、例えば同じ月を見たり風に吹かれたりしながら、時間と場所を共有し句を作ることに意義がある。インターネットでは「座」が共有できないので、私はネット句会はやらなかったのですが、携帯を使えば新しい「座」の共有ができると気がついた。短冊と筆を携帯に持ち替える感覚で、俳句にはとても合っているツールだと思います。
いえいえ全く。ピンク・レディーの物まねが好きな普通の子どもでした。父が俳人なのはむしろ嫌で、家で開いていた句会で、いい大人が言葉一つに大声で論争をしているのを聞き、「俳句をやる人って何て大人げないんだろう」と思っていました。その後特に趣味もなく短大を出て銀行に勤めまして。とにかくお嫁さんになりたかったですね。今もなりたいですが(笑い)。
ある日、何百人も働いている銀行のオープンフロアで、「あぁ、私ここにいる誰かと結婚して子どもを産んで、孫ができて死ぬのか」と急に明日や将来が見えてきて不安になったんです。同じ不安なら明日が見えない不安がいい、と銀行を辞め、テレビのリポーターなどをしていたのですが、俳人の杉田久女さんの生き方に興味を持ったことがきっかけで俳句の道に入りました。俳句はわずか17音。自分の心の叫びを言葉を尽くして言うことはできないけれど、余白で読み手に多くのことを想像させてくれる。そんな物言わぬ日本人の美意識に惹(ひ)かれました。それから「B面の夏」で賞をいただくまで、家事をしない家事手伝いとか予定のない花嫁修業中とか言われつつ(笑い)、約6年間俳句修業をしていました。
カタカナでも違和感があるのに、Bですからね。私は恋やサーフィンなど現代を歌う句を詠んでいたのですが、句会では全然評価してもらえなくて。やっぱり神社仏閣を詠まないとだめかな? と鎌倉の銭洗い弁天に出かけたりしていたところ、父が「そんな句はいくつになってもできる。若い今しか詠めない句を作ったら?」とアドバイスしてくれたんです。そこで心新たに、恋やサーフィンを素材にしても認めてもらえる作品を作ろうと努力した結果が「B面の夏」です。

俳人。1962年神奈川県湯河原生まれ。フェリス女学院短期大学を卒業後、富士銀行に入社。その後、テレビ番組のリポーターとなり、89年に俳人、杉田久女の評伝小説に感銘を受け、リポーターとして久女の足跡をたどる旅を経験したことで、俳句結社「河」に入会。94年「B面の夏」50句で第40回角川俳句奨励賞受賞。同年俳句サークル「東京ヘップバーン」創刊・主宰(2006年通巻100号を機に終巻)。99年、北スペイン・サンチャゴ巡礼道900キロを徒歩で踏破した後、01年〜02年に5回訪韓し、釜山からソウルまでを踏破。02年「京都の恋」にて第2回山本健吉文学賞受賞。05年より「日本再発見塾」呼びかけ人代表。句集に「B面の夏」「花ごろも」「忘れ貝」、紀行集「星の旅人」「サランヘヨ」、入門書「心に残る手紙の書き方」など。
携帯メルマガ「黛まどかの『俳句でエール!』」を配信しています。いじめが大きな問題となっている現在、また年間3万人もの自殺者がいる現代の日本。かつて日本が貧しかった時代に辛さを希望に替える知恵と勇気を持つ手段の一つだった俳句力で、少しでも世の中を元気づけ、苦しむ人にエールを送りたい。そんな思いで黛まどかさんとその仲間が集まり、始めた活動です。
※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。