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ひとインタビュー俳句の世界に魅せられて知った 物言わぬ日本人の余白の美意識 第三十七回 黛まどかさん

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もののとらえ方が豊かになる

――俳句は生活を変えるそうですね

日常の目のほかに、俳句を詠む目ができてきます。その目を通して、雲の形、葉っぱの色、風の香りなど、細かい自然のうつろいに気がつき、感性が豊かになります。例えば旅行も何倍も楽しめる。私も俳句をやる前は、旅先で雨が降ると「損した」と思いましたが、今はもし城下町にいれば、雨の城下町もいいな、ぬれた石畳の風情があるな、など、晴れでも雨でもありのままを楽しめるようになりました。また俳句をやる人は、本通りではなく裏道を歩けと言いますが、裏道には人の生活の音や香りとの出会いや発見がある。湯桶(ゆおけ)の音や夕餉(ゆうげ)の支度の音やにおい。俳句の目を持つことで、そんな偶然の出会いを大事にできるようになるのです。

――スペインのサンチャゴ巡礼や韓国の旅と歩く旅にこだわってらっしゃいますが、芭蕉の影響ですか?

最初の徒歩の旅であるスペインのサンチャゴ巡礼は、「星の巡礼」という本に影響されたのですが、歩き始めた初日、まさに芭蕉の「奥の細道」を実感しました。一日重い荷物をしょって歩くと、足よりもまず肩が痛くなるんです。そこでふと浮かんだのが「痩骨(そうこつ)の肩にかかれる物、先苦しむ」という芭蕉の記述。芭蕉も肩が痛いと言っていた、と。また彼の荷物の中身に雨具、寝巻、洗面用具、断りきれなかった餞別(せんべつ)のたぐいとあるのですが、私も素材は違えどもまさに同じものを持ち、やはり断りきれなかった餞別が重くて。芭蕉を身近に感じましたね。またその夜ピレネーの山の中でへとへとになって座り込んだ時に、1本のスミレが咲いていたんです。それを見た時「よくここまで来たね」と神様にギフトをもらった気分になったのですが、これも「山路来て何やらゆかしすみれ草」という芭蕉の句と同じ。これまでわかったつもりだった芭蕉の句の意味が、初めてわかりました。それからは古典の解釈の面からも、実作面からも、国内外で「歩く旅」を大事にしています。

――海外に出る機会が多いと、より日本文化の良さを実感するのでは?

それはありますね。私が圧倒的に日本の言葉の文化力を感じたのは、反日感情が強かったある韓国人の方のお話です。その方は反日教育を受け、日本も日本人も大嫌いでした。でも仕事で来日し、嫌々時を過ごして帰る車中で雨が降ってきた。その時見送りで同乗していた日本人が「この雨は、遣(や)らずの雨と言って、あなたを帰らせたくないから降っているんですよ」と言ったことで、その彼は「日本人とは、何とポエティックな表現をする民族なのだ。こんな繊細な言葉の文化がある民族が悪いことをするはずがない」と一気に反日感情が解けたそう。以来、彼は日本人に会うたびにその話をするのですが、最近は遣らずの雨を知らない、という日本人も多く、嘆かわしいと言っていました。

時空を超えて、世界が広がる

――日常忘れがちですが、美しい日本の言葉はたくさんあるんですよね

例えば私が好きな言葉に、陰暦5月28日に降る雨を指す「虎が雨」があります。この日は曽我兄弟が討ち死にした日ですが、不思議と雨が多く、兄の十郎の愛妾(あいしょう)虎御前の涙雨と言われています。滅びていくものに心を寄せていく日本人の美意識が表れていますよね。別にこういう言葉は知らなくても日常、何の不自由もないのですが、陰暦5月28日に雨が降った時に「あぁ、虎が雨ね」と思った瞬間、雨の向こうに時空を超えて広がる世界がある。それが言葉の力なんです。私はそれを伝えていきたい。俳句で現代を詠むと同時に、古い言葉を意識的に使い、日本人の繊細な美意識を伝え、目に見えないものの世界を大切にしていきたいと思います。

(写真)黛まどかさん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

モロッコのスークで買ったポット。仙人のようなおじいさんに、スークの奥深くにある彼の店に案内され、いかに価値があるか延々と話を聞かされ根負けしたのです。が梱包(こんぽう)が荒く帰国したら壊れていた。それを見るたびに自分の甘さや、スークを水の流れのように歩く彼の後ろ姿などスイート&ビターな思い出がよみがえります。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

大先輩の鈴木真砂女さんです。大きな旅館の娘さんだった彼女は、50代で家庭も財産もすべてを捨てる恋をして、鞄(かばん)一つ持って家を出ました。借金をして銀座に店を出し、90代になっても自分でお店に立っていらした。つらいことも多かったでしょうに、「私は何一つ後悔していません」と最後まで背筋を真っすぐにしていた方でした。

質問3
人生に影響を与えた本は?

まず、私が俳句の道に入るきっかけとなった杉田久女の評伝小説「花衣ぬぐやまつわる……」(田辺聖子著)。もう1冊が「星の巡礼」(パウロ・コエーリョ著)。北スペインの聖地・サンチャゴへの巡礼の道を歩くパウロの神秘的な体験を描いたこの本で、私もサンチャゴを徒歩で踏破してしまいました。

アンケート 今回のインタビューについて皆様の「声」をお聞かせください。

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