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ひとインタビュー向き合うたびに違う発見がある ベートーヴェンはいつも新しい 第四十八回 仲道郁代さん

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言葉の先にある世界

温かく心に響いてくる音色、叙情豊かな演奏に思わず引き込まれる。日本を代表するピアニストとして注目を集める、仲道郁代さん。ソロリサイタル、国内外の主要オーケストラとの共演といったクラシック従来の活動に加え、ビギナーやキッズ向けに新しいスタイルのコンサートも展開。まさにクラシック界のパイオニア的存在だ。なかでもベートーヴェン、そしてそのピアノ・ソナタへの真摯(しんし)な取り組みと音楽性は「ベートーヴェン弾き、仲道郁代」と言われるほど高い評価を得ている。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)

――ベートーヴェンへの取り組みはもう10年になるそうですね

年を重ねた時に自分で納得してベートーヴェンが聴けるようにしておきたくて勉強を始めたのですが、作曲家の諸井誠先生に楽曲分析などを教わるうちに、思想や構築的な曲の作り方などの素晴らしさに気づき、いつの間にか引き込まれていました。

ずっと取り組んでいるピアノ・ソナタ全32曲は「新約聖書」とまで言われており、現在にいたる音楽すべての種子がこの中にあるんです。シューマンやショパンなどもみんな影響を受けている。だから、ベートーヴェンに取り組むことで、他の作曲家の作品を新たな視点で見つめ直すこともできましたね。

――具体的にどんな魅力が?

ベートーヴェンの曲には単なる感情や情景だけでなく、普遍的な心理や哲学、人に対するメッセージが込められています。それだけにベートーヴェンと向き合うことは、「生きるとはどういうことか」という人間の存在理由を考えることにもつながる。

――真摯なものを突きつけられるところが大変であり、面白さである、と

そうです。たとえば、ショパンは美しく叙情漂う感じでしっとりと心のひだにしみ入る作品が多く、モーツァルトは天上の世界を見せてくれるような、幸せと安らぎを感じさせる作品が多い。ところがベートーヴェンの作品は全然違う。胸ぐらをグッとつかみながら「心の奥底をしっかり見なさい」「ちゃんと感じなさい」と言われているような。人間の根底にある本質の部分に訴えかけてくる激しさがあるんです。

――楽譜を見るたびに新たな発見があるそうですが

たとえば、「皇帝」なんて今までに何度も弾いているし楽譜も穴があくほど見ているのに、ふとした瞬間に「もしかして、このスラー(なめらかに演奏する、という意味の楽譜上の記号)はこんなことを表しているのかも」と初めて気づいたりするんです。まるでダヴィンチ・コードの謎解きのような、パズルを読み解く面白さがベートーヴェンの作品にはつまっている。それでいてその中でちゃんと「人生とは何たるか」も語っている。そこがすごい、偉大だと思うゆえんです。

――弾き方も変わりそうですね

そうですね。自分なりの解釈で演奏させてくれる、そんな寛容さもベートーヴェンにはあって。だから私も「今日はこんな解釈で弾いてみよう」と隠しテーマを持ってその都度演奏に臨んだりしているんですよ。

深遠な幸福感に包まれる時間

――プロのピアニストになろうと決意したのはドイツ留学がきっかけとか

文化庁在外研修員として奨学金をいただき2年間ドイツ留学を経験しました。その時、教会で神々しい音楽を体感したり、近所の公民館で高齢のご夫婦が学生の演奏を気軽に楽しんだりといった姿を垣間見たりする中で、音楽と自分の意味を改めて考えたのです。その時に、人にどう評価されてもいい、とにかく音楽と向き合っている自分でいようと誓ったんです。それこそがまさに自分にとっての真実だから、と。

――今にいたるには相当努力されたと思うのですが

練習はたくさんしました。学生時代なんて1日10時間、睡眠と食事、入浴時間以外はずっと弾いていました。でも、そのペースでまる2日間練習すると3日目は5時間でアウト。疲れて続かないんです。だから3日サイクルで10、10、5時間の練習。練習そのものより、練習時間の目標達成することに燃えていた面もあります(笑い)。

――演奏されている時は何か意識しているのでしょうか?

音です。奏でる音に自分も浸れている時は、ものすごく深い幸福感に包まれる。その境地は無意識と意識のはざまにある。このはざまを感じた瞬間、予想をはるかに越えた素晴らしい演奏ができたりするんです。

演奏する時は、筋肉、頭そして心の動きすべてがいい状態でリンクしていないといけないのですが、それを意識しすぎたり探りながらだと絶対にベストコンディションにはならない。だから、何も気にせず、最初の音を弾いた瞬間から音色に浸り、そのプロセスの中でいい状態がくればいいという気持ちで演奏しています。

(写真)仲道郁代さんプロフィール

仙台市に生まれ、浜松市で育つ。4歳からピアノを始め、桐朋学園大学1年在学中に第51回日本音楽コンクール第1位を受賞し、注目を集める。1985年からミュンヘン国立音楽大学へ留学、86年ジュネーヴ国際コンクール最高位など多数の受賞を経て、87年ヨーロッパと日本で本格的にデビュー。以来、国際的な指揮者やアーティストとの共演、リサイタルを国内外で行う他、芝居と演奏からなるクラシックビギナー向けコンサート「ゴメン!遊ばせクラシック」や、「絵とお話とピアノでつづる“星のどうぶつたち”」といった子どもたちのためのシリーズ企画も各地で開催。さらに、2002年からは「ベートーヴェンの全32曲のピアノ・ソナタを語り、聴く会」と題して、彩の国さいたま芸術劇場で諸井誠氏との解説・対談・分析を交えながらソナタ全32曲の演奏を行うという画期的なプロジェクトに取り組んでいる。03年からは大阪音楽大学特任教授、財団法人地域創造知事としても積極的に活動。06〜07年はデビュー20周年にあたり、全国各地で記念公演を実施している。

お知らせ
デビュー20周年記念リサイタル&アルバム

デビュー20周年記念リサイタル第2弾の公演が11月に決定。同時に、20周年記念アルバムも相次ぎリリースされる。「クラシックは、自身の内面や人生と向き合える時間を与えてくれる、とても深くて素晴らしい世界が広がっている音楽です。その良さを伝えたいという思いはあるのですが、まずはもっと気軽に楽しんでほしい。今日はジャズ、明日はポピュラー、あさってはモーツァルトと言う感覚で、日常生活の中に取り入れてもらえたらうれしいです」と仲道さん。

仲道郁代さんのデビュー20周年記念リサイタル

  • 「仲道郁代ピアノ・リサイタル」 デビュー20周年記念 第2弾
    2007年11月11日(日) 14時開演 サントリーホール(大)
  • 問い合わせ/ジャパンアーツぴあ
    TEL03-5237-7711
    http://www.japanarts.co.jp

デビュー20周年記念アルバム連続リリース発売予定

2007年9月26日発売予定

  • 「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集Vol.10」(ハンマークラヴィーア・ソナタ〜ピアノ・ソナタ第29番、第19番&第20番)
    ※ベートーヴェン最大・最難曲「ハンマークラヴィーア」を含む、ソナタ全集10枚目
  • 「小品集(タイトル未定)」(仲道郁代ベストアルバムとして発売予定)
    ※「小犬のワルツ」「英雄ポロネーズ」など新録音8曲を含む名曲集

2007年10月24日発売予定

  • 「ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集 Vol.11」(最後の三大ソナタ〜第30番、第31番&第32番)
    ※絶賛のシリーズ、ついに完結。最後の三大ソナタへと到達

2007年11月7日発売予定

  • 「仲道郁代の軌跡(仮)」(6タイトル予定)
    ※カップリングを変え、ニュー・リマスタリングによるリイッシュー
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