恋する女の情念をしっとりと、澄みとおる声で艶(つや)やかに歌い上げる。ここ数年でその歌声、そして表情、たたずまいに一層輝きが増したように思える。
「津軽海峡・冬景色」「天城越え」など数多くのヒット曲で知られる石川さゆりさん。今年で歌手生活35周年になる。9月30日まで東京・日本橋三越で開催された「石川さゆり展」にはあらゆる世代の人々がつめかけ、自身の人生を重ね合わせながら、石川さゆりの世界に酔いしれた。石川さん自身はこの35年を今、どのように受けとめているのか、うかがった。
(取材・文/井上理江 写真/徳田貴久)
歌だけでなく、私の着物姿を楽しみにしてくださるファンの方も多いので、今回はNHK「紅白歌合戦」出場の時やステージなどで着させていただいた着物や帯、それとかんざしなどをいくつか展示しました。
ただ、最初に着物を着始めたのは娘の出産後でしたから、実はまだ二十数年なんです。7カ月ほど歌をお休みしていて、どのように活動を再開しようか考えていた矢先、周りから着物を着てみたらと勧められたのがきっかけでした。
せっかく自分が着物を着て歌うならそこにドラマが作れたらいいなと。着物で歌の主人公を表現するというか、歌の中の女性をふっとうかがわせるような着物や帯の結び方を演出したかった。それによってより歌の世界も広がるし、お客さまにも喜んでもらえると思ったからです。
今はもうすっかり、これが石川さゆりの着物の着方として、認められるようになってきました。逆にみなさんが楽しみにしてくださる。続けてみることで「私流」というものが生まれ、育っていくものなんだなと最近改めて思っています。
実は私自身、あまり過去を振り返るというのが好きではなくて、「明日はこんな面白いことがありそう!」「来年はこんな楽しいことがしたい」といった具合にこれまでずっと前を見て進んできました。それが、「朝花」がシングル101枚目となったことにハタと気づいて。考えたら、アルバムも115枚出していて、2000曲近くを世の中に出しているんです。これからもきっと私は前を見て突き進んでいくのだとは思う。でも、これだけの作品を世の中に発表してきたのだから、たまにはちょっとだけ昔を振り返ってもいいんじゃないかなって。
多くの方々に協力してもらって作り上げてきた「私のこれまで」を心して振り返ることで、明日へ向かう心持ちも少し違ってくるような、そんな期待が膨らんだんです。
一つひとつの歌やステージを作り上げていた時の思いや、人との出会いを思い出すことが多くて。本当に大切なものは目には見えない。でも、私はそういう目には見えないものをむしろ大事にしたい。それがずっと一貫して自分の生き方の軸になっていたんだなと改めて気づかせてもらいました。

1958年熊本県生まれ。15歳の時に「かくれんぼ」で歌手デビュー。77年「津軽海峡・冬景色」で第19回日本レコード大賞歌唱賞他受賞多数。その後、「天城越え」「夫婦善哉」「風の盆恋歌」など数多くのヒット曲を持つ。93年からはさまざまなジャンルの音楽の融合とも言えるリサイタル「石川さゆり音楽会」を毎年開催。99年からは歌と芝居を組み合わせた独自の「歌芝居」に力を入れている。また、CDも35周年記念楽曲第1弾シングル「狭霧の宿」を3月に、第2弾として「朝花」を9月にリリース。記念オリジナルアルバム「さゆりIII」(5月)、「歌芝居」(10月)も発売中。11月には10年かけて111 曲を収録した「二十世紀の名曲たちBOX」全10枚も発売される。趣味はスキー、スキューバダイビング、陶芸。
1993年から続けている「石川さゆり音楽会」も10回目。さまざまなジャンルの音楽の融合を試み、音楽の楽しさを表現するリサイタルだが、歌手生活35周年となる今年は、99年から挑戦してきた「歌芝居」の集大成として、水上勉作品「飢餓海峡」を披露する予定。充実の時を迎えた石川さゆりさん渾身(こんしん)のリサイタルをぜひご覧ください。
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