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ひとインタビュー映画を通して日本と中国、そしてアジアをつなげたい 第五十八回 中井貴一さん

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おやじに会いたくて

――「ヘブン・アンド・アース」で中国と仕事されたのは40歳直前ですね。何かきっかけがあったのですか?

昔から僕は、自分の寿命はおやじが死んだ37歳までと思い込んでいたんです。それまでの人生はおやじに対して恥じないように生きなければという思いが強かった。でも37歳を無事に過ぎ、ある意味おまけの人生になり、そこからはどう自分のために生きるかを考えたんですね。結婚もして40歳を目前にして、正直このまま普通に俳優をしていても「そこそこ」はやっていけるとの思いはあったけれど、自分としてはそれが嫌だった。あとね、僕はおやじに会いたいんです。子どもの頃から会いたくてたまらなくて、いずれ自分が死んだら会えると信じている。その時に「あれからいろいろあってさ。こんな失敗しちゃったんだよね。37歳からの人生って、すごい大変だよ。おやじ、いい時に死んだよ」なんて話をしたい。「そこそこ」で生きていたらそれができないじゃないですか。どうせならいろいろ無茶をやって、おやじに「ばかだね〜、お前は」と言われたいんです。

――中井さんは正統派のイメージが強かったので、それは意外ですね

「正統派」とずっと言われてきましたね。デビューしてすぐの83年、「父と子」という映画で小林桂樹さんと共演した時に、「君は正統派だけどこれからはアウトローの時代だ。でもアウトローばかりじゃ映画は撮れない。正統派がいるからアウトローは存在するんだ」と言われたんです。その時は意味がよくわからず、「正統派って大変ですかね?」と聞くと「大変だよ。アウトローは評価されるけど正統派はされない。どうする?」なんて言われてね。実際、時を経て思うのは、やはり正統派は人からやっかまれることはあっても、評価がされにくい。

――ものすごく割にあわないですね

そう。だから僕は20数年ずっと悩んできた。でも自分の中に「上等じゃねえか。やってやるよ、この野郎」みたいな反骨精神があって(笑い)。自分にはどうも無難とか、「そこそこ」を嫌う性質があるのか、あえて困難なほうへ困難なほうへ行きたがるんですね。だから中国にも行くのかな(笑い)。今回の「鳳凰わが愛」の現場では、プロデューサーと役者という二役も難しかった。危険な水中撮影や雪山の現場では、プロデューサーの立場としては撮影を止めたいけれど、役者の自分は「できない」と言いたくなくて続行する、なんて葛藤が常にありました。それに予算のことがわかりすぎるのは、あんまり俳優としてはよくないですね(笑い)。

日本人の誇りとは

――仕事で海外に出ると、日本人の誇りについて考えることも多いとか

僕が思う日本人の誇りとは、やはり武士道の精神。「惻隠(そくいん)の情」という言葉は、勝負の世界では負けていく者にも礼儀を尽くすことですが、今の世の中で言うなら、他人の立場に立って、ものごとを感じとることや思いやることだと思うんです。これは日本人の根底に自然とあるものなんじゃないでしょうか。海外で仕事をするときには、こういった日本人の美徳を否定してはいけないと思います。海外では誇りを持たない人間は認められないと思うんです。

それから逆説しているようだけど、その国の人の考え方を柔軟に取り込むことも必要。たとえば、日本人は経過を大事にするけれど、中国人はとりあえずやってみようという結果主義なんです。結果主義は安全性に欠けることもあるけれど、「えいやぁ!」とトライできる良さもある。日本の良さと中国の良さを50対50で融合させたら、映画であれ何であれ世界に誇れるものが作れると思いますよ。僕はね、まずアジアの文化を世界に認めさせたいんですよ。

――海外で心おきなくお仕事ができるのは、奥様の存在も大きいのでしょうね

彼女は仕事をしているし、支えられているというよりパートナーという感じです。僕は変に支えられるのも苦手なんですよね。がんばってと言われると「そんなにがんばれないよ」となる。でもあまりに何も言われないとね……。ときどき妻に「ねぇ、俺が俳優って知ってる?」と聞いています。妻は「うん、知ってる」と返事してますけどね(笑い)。

(写真)中井貴一さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

結婚した時に購入した家ですね。それまでずっとおやじが建てた家に母と住んでいたのですが、結婚する時に周りから「実家を壊して新しい家を建てたら?」と言われたんです。でも僕としては父が母のために建てた家を壊したくなかった。自分が父にできる唯一の親孝行が、おやじの建てた家をそのままにとっておくことだと思ったんです。だからみんなに「バカだねぇ」と言われながら、銀行に大借金をして家を購入しました。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

僕の周りには、人生に対して前向きでこだわりのある人が多いですね。あえて一人挙げろと言われたら、やっぱり高倉健さん。器がケタ違いです。「ヘブン・アンド・アース」の中国ロケで、精神的に追い込まれ、キレそうになっていたまさにその時、日本からウイグルまで電話をいただいたことがあるんです。「貴一くん、こらえろよ」と言っていただいて踏みとどまったんですが、今思っても本当にありがたいことです。

質問3
人生に影響を与えた本は?

たくさんあって、1冊には絞れないなぁ。宮城谷昌光さんの中国を舞台にした歴史小説は好きでよく読みますね。実は僕は、撮影に入ると台本ばかり読んでいるので、それ以外の活字は読まないんです。夜中でも台本を読んでいてアイデアがわくと、もう誰かに話したくてたまらなくなるんですよ。誰か起きてないかなとウズウズしたりね。要するに、仕事人間なのかな(笑い)。

アンケート 今回のインタビューについて皆様の「声」をお聞かせください。

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