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ひとインタビュー心に深くしみ入る音楽の秘密は試練を乗り越えた不屈の魂 第六十回 馬場俊英さん

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CDを聴いてもらえる喜び

――たとえばどんなことを

CDは作ったらすぐ店頭に並ぶと思っていましたが、自分で製作、営業を兼ねてみると、音楽が人に届くまではなんて多くの人の汗があるんだ、と感じられたこと。また通販も行ったのですが、注文があると一つ一つ梱包(こんぽう)しながら「これが着いたら、この人は僕の曲を聴くんだよな」とわくわくして(笑い)。CDが1枚売れることや、聴いてもらえることがこれほどうれしいのかと、改めて自分が音楽を行う原点に触れた思いでした。

――そんな頑張りが認められ、38歳でメジャーに復活し、昨年は夢だった大阪野外音楽堂での3000人ライブも実現させて大活躍ですが、以前と何が違うのでしょう

より、自分の気持ちを曲に込めるようになりました。インディーズの5年は正直、もうだめだ苦しいと思ったことも何回もありましたが、その苦しさや、何とかそこで踏みとどまった実感。応援してくれる人への感謝など、忘れられない気持ちを体験できたことが、僕の音楽活動に生きています。自分が持っていた言葉の辞書がバージョンアップされたというか。それまでの「ありがとう」と、インディーズ時代の「ありがとう、本当にうれしい」といった気持ちは、全く違うものだったんです。また、年齢を重ね、それまでは平凡に思えた日常の中にたくさんのドラマがあることに気がついた。そんな情景への気づきも込めるようになりました。

――それが人の心をうつのでしょうね

聴いてくれている方は、ご自身の思い通りにいかないという気持ちや、少しでも状況を変えるために一歩踏み出そう、とする中の不安や迷いを曲に重ねあわせてもらっている気がします。よく僕の曲は、あんまり「ああしろ、こうしろと言わないね」と言われるんです(笑い)。メッセージよりも自分が通ってきた場面というか、情景を描くことで、こういうことってあるよね、と共感してもらいたい。たとえば悩み、路地に迷い込んだ時に、一回枝分かれした道を戻って、そもそも自分は何がやりたかったんだっけ、と。曲を聴くことで忘れていた景色を取り戻していただけたらうれしい。誰の日常でも、一瞬一瞬をスライドショーのように切り取ったら、そこには必ずかけがえのないものが封じ込められているはず。そういう感動を描き、悩んでいる方の隣の道を歩いていけたらと思います。

いくつになっても生き方に悩む

――苦しさの中で頑張った時と、今後は曲作りが変わってきそうですね

種類は違えども、今も苦しさや悩みは変わらずあります。僕は子供の頃に「大人になったらいろんなコツがわかって、もう悩むことなんてないんだろうな」と思っていた。でも自分が大人になると全くそんなことはないし、初めて体験することも多く戸惑ってばかりです。また最近、40代、50代の方にお会いすることが多いのですが、彼らもやっぱり、自分がどう生きていくのか?という悩みはつきず、むしろ深まっている。僕もこれからもたくさん悩むでしょう。その時々に自分のテーマが生まれ、そこに情熱を注いで曲を作る姿勢は変わりません。

――今、振り返って、あきらめずに歩き続けて来られた理由は何だったと思いますか

歩き続けたというより、「もう少し、次の角まで行ってみよう」と立ち止まらなかった、という実感が強いですね。やっぱり音楽を表現していきたい気持ちと、応援してくれた方たちに自分の音楽が伝わっていく喜びが大きかった。ライブもお客さんが5人とか厳しい時期もあったけど、20人が50人になり、50人が100人、100人が200人といい循環になってからは、本当に楽しくて毎日に夢があったんです。また、僕は子供の頃、親から「負けず嫌いで頑固」と言われていたんですが、途中で負けて家に帰る、というのがやっぱり悔しかったのかもしれませんね。

――2008年の抱負は

昨年は、これまで地道にライブ活動を続けてきたことが間違いじゃなかったと再確認できたので、今年は初心に戻り、さらにライブ活動を深めていきたい。これまで足を運べなかった街や場所、また小さなホールにも改めて足をのばしたいです。そこに集まることで、来てくださる方が、見える景色の変わるような何かを持ち帰り、明日への活力がわいてくる。そんな場所を作れるよう精いっぱい頑張ります。

(写真)馬場俊英さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

30代の「時間」ですね。僕の30代の10年間はまさに明日をもしれぬ日々の連続でした。特に32歳で契約が終了してからメジャーに復帰するまでの日々は、苦しいことも多かったのですが、40代になってこうして音楽活動をしていて、改めて自分には必要な経験だったと思えるようになりました。人より遅くとも、活動が実を結んできたことで、自分の30代は遠回りしたけれど、ある意味投資でありいろいろなものを蓄えてきた「10年」という時間だったと思います。

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質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

最近、心からすばらしいと思うのがコブクロの小渕健太郎君です。彼とは僕の曲をカバーしてくれて以来のおつきあいですが、それをきっかけにイベントでジョイントしたり、曲作りを一緒に行なったり、僕のCDのサウンドプロデュースを担当していただいたりなど、時を共に過ごすことが多かったので、彼の音楽へのこだわりの強さを知りました。小渕君は音楽そのものの先にある違うものを見ている。たとえば音楽を届けたい先や行きたい場所をしっかり見つめ、そのために自分には何ができるか?を逆算して音楽を作っているんです。そういうことを日頃から忘れない姿勢はとても難しいと思いますし、彼を本当にすごいと思うところですね。

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質問3
人生に影響を与えた本は?

東海林さだおさんやジャズピアニストの山下洋輔さんの書く作品、沢木耕太郎さんのスポーツノンフィクションや旅物はよく読みますね。近年読むのは重松清さんの本。彼の本の主人公も僕の歌に出てくる30代後半から40代前半の男性が多いんですね。自分のことだけでなく仕事や家庭、いろんな枠組みの中で自分とは何か?という問いと深く葛藤(かっとう)する主人公に共感することが多く、僕も読んで力をもらっています。彼のエッセーにあったのですが、「いつも同じテーマで書きますね」と言われることがあるそうで、重松さんは「たとえ同じテーマでも、時がたてば感じ方も想(おも)いも変わっていく。自分は何度でも同じテーマで書きたい」ときっぱりおっしゃっていたんです。それを聞いてすごく共感して、僕も同世代の方の悩みや夢、迷いみたいなものをテーマに、何曲も何曲も作ってみたいと思いました。

アンケート 今回のインタビューについて皆様の「声」をお聞かせください。

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