美しく、透明感あふれる歌声だ。言葉一つひとつを丁寧に、慈しむように歌う由紀さおりさん。実力派である。姉・安田祥子さんとともに続けている童謡を歌うコンサート活動も今年で22年目になるという。
その一方で、テレビ・映画などでの活躍も目ざましい。2月2日から公開中の映画「歓喜の歌」でも、ママさんコーラスグループをまとめる、ごく普通に暮らす主婦を好演している。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)
そうなんです。落語には、落語家が登場人物をすべて一人で演じるという、モノローグの妙味があります。その一人ひとりのキャラクターを現実のものとして浮き上がらせ、映像化したのがこの映画。こんなふうに話芸の世界を映画に移しかえた作品はあまり例がないようですね。
実際、コーラスグループの方々とおつきあいが多いので、そういう皆さんに観(み)ていただいて嘘のないようにしたい、日常を懸命に生きている普通の主婦を演じたいと思いました。ステージで歌っている歌手の由紀さおりが見え隠れしてしまったら、私の負けだと思い、そこだけは気をつけましたね。でも、普通の主婦の雰囲気は出ていたでしょ?(笑い)
この二つのコーラスグループが大みそかのコンサート会場をダブルブッキングされてしまう、というストーリーなのです。商店街のパートで必死に働きながら合唱をやっている庶民派と、それに対比するかたちでセレブ派が存在するという描かれ方だとちょっと違う。そんな気がしたので、上品な奥様グループだからといって、決して暇つぶしや道楽で20年間歌ってきたわけではない、それぞれに人生背景があって、抱えている思いがあるのだから、そこも庶民派グループの女性たちと同じように丁寧に演出してほしいと、生意気とは思いつつ最初に松岡錠司監督にお話しさせていただきました。
私自身も緩和ケアセンターを訪問して歌ったことが何度かあるのですが、実際、施設などへ慰問活動を行っている女声合唱団は全国に数多くある。つまり、セレブのチームだって、歌で社会とつながっていたいという熱い思いを秘めている。歌への思いは庶民派グループと何ら変わらないのだということを、あのシーンを盛り込むことで伝えてもらえた。それがあったからこそ、後半部分の、共感しあって一緒に舞台に立ち、「歓喜の歌」を歌うというシーンへ素直につながっていったと思います。
歌っているときはバックボーンは関係ないんです。抱えている重圧から開放される瞬間であり、青春時代に戻れるひとときであったり……。歌に寄せる思いは実に千差万別なのですが、そこを松岡監督は出番の多い少ないに関係なく、とても優しいまなざしで一人ひとり丁寧に描いてくださった。
合唱は、自分一人で歌っているときとは違い数百倍もの音に包まれるわけですから、本当に気持ちいいですよ。みんなで一緒に歌うというのは「人を感じること」だと思うんです。まわりの声を感じ、自分の声をそこにそわせていきながら一つの作品を作り上げていく、それがだいご味なんですよね。それと人は歌うことで嫌なことを忘れ、自分をフラットにできる。何か新しいエネルギーをそこで得て、日々の生活に戻っていき、頑張れる。そういう力が歌にはあるような気がしますね。

群馬県出身。子どものころ、ひばり児童合唱団に所属し、童謡歌手として活躍。1969年「夜明けのスキャット」で歌手デビュー。爆発的にヒットし、スキャットブームを巻き起こす。代表曲に「手紙」「恋文」など。86年にスタートさせた姉・安田祥子との「童謡コンサート」は2006年11月に公演回数2000回を超え、その活動で数多くの賞を受賞している。毎年エリアを決め、応募のあった中学校から抽選で開催する「手づくり学校コンサート」も今年で7年目。07年には「子どもの歌を考える会〜ソレアード〜」を立ち上げている。著書に「由紀さおり・安田祥子 こころの音楽教科書 あしたへ贈る歌」(小学館)。また、女優としても活躍しており、主な映画出演作に「家族ゲーム」(83年/毎日映画コンクール助演女優賞受賞)、「早春物語」(85年)、「模倣犯」(02年)、「オペレッタ狸御殿」(05年)、「魂萌え!」(07年)などがある。
人気落語家、立川志の輔さんの同名落語を映画化した音楽喜劇。大みそか、文化会館主任が似た名前のママさんコーラスグループをダブルブッキングしてしまったことから起こる騒動が描かれる。事なかれ主義の主任に小林薫さん、庶民派コーラスグループのリーダーに映画出演6年ぶりの安田成美さんなど、由紀さんだけでなく実力派が勢ぞろい。なおかつ、本物のママさんコーラスグループも出演し、とくにクライマックスの大合唱は圧巻です。
ごく普通の人々が起こす、ささやかな日常の奇跡。忘れかけていた真心を思い起こさせてくれる、ハートフルな温かな映画。ぜひご覧ください。
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