独特の風姿、ざっくばらんな語り口調。気さくでまったく学者然としたところのない人だ。しかし、実際に携わっているのは脳科学最大のテーマ「クオリア」の研究。喜怒哀楽の感情、そこはかとない不安、赤い色を感じる感覚といった、意識の中で感じるさまざまな質感「クオリア」のメカニズム解明に真っ向から取り組む。一方で、書籍や雑誌記事の執筆、テレビでの司会、講演と数々の仕事をこなす。いったい、この人の脳の中はどうなっているのだろうか。
(取材・文/井上理江 写真/田中史彦)
これまで一番ヒットした「ひらめき脳」(新潮新書)で約10万部。お陰であっという間に自己記録更新です。小中高校時代、勉強が面白くてたまらなかった。勉強しているとなんかうれしくて延々と勉強をしていた。で、それはなぜだったのかと改めて振り返ったときにハタと気づいたんです。脳が喜ぶ勉強法を子どもの自分は知らず知らずに体得していたのだ、と。そんな僕の勉強法を脳科学の知見をもとに書いたのがこの本です。
僕が裸になったからでしょう。ノウハウ本は書かないぞ、とかたくなに思っていたのですが(笑い)、まずその殻を破り、自分の勉強法をそのまま書いた。生身の僕が実践してきたことだから、わかりやすく入っていけるのだと思います。
試行錯誤したことを達成できたり、ほめられたりするとうれしいでしょう。その喜びによって、人間は脳の中で「ドーパミン」という物質を分泌する。その分泌量が多いほど、快感を生み出す行動が次第にクセとなり、上達していく。これを「強化学習」と言います。「脳を活かす勉強法」とは、この「強化学習」のサイクルをまわすことにあるのですが、それをすでに僕は子どもの時に実践していた。脳の研究を始めて15年たって初めてその事実に気づいたわけです。
そうですね。ドーパミンが関与する「強化学習」は正解がない学習なんです。自分の脳がどうしたら喜ぶのか、そこには無限の選択肢があるわけです。しかも、ドーパミンが分泌されるためには、実はその喜びの中身が非常に重要。やさしすぎても難しすぎてもダメ。やや「無理めの課題」を自分に与え、それに全力を出してがんばり達成する、というのが大事なんです。しかも、自分にとっての「無理めの課題」は自分で探すしかない。これを「教師なし学習」と言いますが、実はこの学習法を僕自身忘れていた。だから、この本をきっかけにより自覚的にもう一度、あの夢中になって勉強を楽しんでいた時の感覚で、自己学習を実践しようと。そういう意味で、この本は僕にとって人生再出発のきっかけになりました。
ドーパミンが出て脳が強化される学びは人を変えるんですよ。僕はまだ過渡期で、まだまだ完成形ではなく、もっともっと変わっていきたい。そう思っているからです。
本気で英語圏で勝負できる人間になりたいんです。小説家では、村上春樹さんのように海外で認められた日本人もいるのですが、学者などインテリジェンスの分野ではまだ少ない。だからこそ、より洗練された英語表現を修得し、英語圏でひと暴れしたい。その思いが今、僕のドーパミンを出す一つになっています。
僕はそれが悔しくてたまらない。高3の時、高校の最寄り駅で友人が本を読んでいたんです。それは英語で書かれたイギリスのエリザベスI世の伝記。「受験勉強は大変だから、せめてこういう時にこういう本を読まないと精神のバランスが保てないから」と。彼は今でいうセンター試験、当時の共通1次試験で全国1位となり、現在は東大の准教授です。彼のように学問に対して真摯(しんし)な姿勢でかかわっていれば、それが一生自分のものになる。そういう勉強のしかたこそが本物。そういうことをもっと多くの人に知ってほしいと思い、この本を出したとも言えます。

脳科学者。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー、東京工業大学大学院連携教授、東京芸術大学非常勤講師。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」をキーワードとして心と脳の関係を探求。2005年に「脳と仮想」(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞している。そのほか「脳とクオリア」(日経サイエンス社)、「脳内現象」(NHKブックス)、「脳の中の人生」(中公新書ラクレ)、「ひらめき脳」(新潮新書)、「欲望する脳」(集英社新書)、「思考の補助線」(ちくま新書)、「すべては音楽から生まれる」(PHP新書)、「脳を活かす勉強法」(PHP研究所)など著書多数。さらに、NHK総合テレビ「プロフェッショナル〜仕事の流儀」のキャスターを務めるなど幅広く活躍。
幼いころからクラシック音楽を聴いていたという茂木健一郎さん。ご自身にとって「音楽とは?」と聞くと、「ライバルです」とひと言。「悔しいくらいに理想の形をしている。あんなふうに僕自身も作品を作りたいと思わせてくれる存在です」。
そんな茂木さんが「ラ・フォル・ジュルネ」と出合ったのは2005年のゴールデンウイーク。大手町へ行く用事の途中、偶然地下鉄でポスターを見かけ、ふと会場へ出かけてみた。「そしたら、まさに本物の音楽がそこでは繰り広げられていて感動したんです」。間口が広いのに変に小細工せず、ありのままの、本物の音楽がこの音楽祭にはあると茂木さんも絶賛。クラシックにあまり触れたことがないという人にもぜひ足を運んでいただきたい。今年は茂木さんがアンバサダーを務めます。
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