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ひとインタビュークラシックの枠を越え活躍「男」のテノールを伝える 第六十八回 秋川雅史さん

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進化する「千の風になって」

一昨年、秋川雅史さんがNHK「紅白歌合戦」で歌った「千の風になって」は社会現象となり、昨年はクラシックというジャンルで異例のミリオンヒットになった。その容姿からテノールの貴公子と称され、順風満帆のイメージがある彼が、今回は歌への思い、声を失う危機があった長い病の日々の葛藤(かっとう)、彼の中に脈々と流れる愛媛の男の熱い血のたぎり、と意外な面を赤裸々に語ってくれた。
(取材・文/田中亜紀子 写真/小山昭人)

――約2年半ぶりの新アルバム「千の風になって〜一期一会〜」は、すごく充実した内容ですね

時間がかかっても自分が納得できる、質のいい音楽を作ろうと、選曲にも構成にもこだわり製作に1年かけました。今回は「日本の名曲」というコンセプトの中でバラエティーをつけようと、ポップス、演歌、地方民謡などいろいろなタイプの曲を取り入れ、全体としてドラマを作るように変化を出したんです。

――「ワインレッドの心」「川の流れのように」などカバー曲も多いですね

他の方の曲を自分のものにするのに相当歌い込みました。でもこれで完成、という姿はないです。僕は音楽は生き物だと思っていて、例えば「千の風になって」は3年近く歌っていますが、自分の印象ではまだ進化中です。歌を大木に例えると、一つの歌を人前で歌えるまでに練習を重ね、自分の歌い方という大木の「幹」ができる。そして人前で歌い続けるうちに枝葉がどんどん成長するんですね。今回はこの数年で枝葉が豊かに成長した「千の風になって」を、原点に戻る気持ちで2006年のNHK「紅白歌合戦」に初出場した時のバージョンで歌ってみました。おかげさまで今は僕の歌を聞いてくださる方が増え、昨年は123本ものコンサートを行なったのですが、そんな活動はやはりあの紅白の舞台がスタートラインでした。

――初のオリジナルも披露しています

もともとクラシックの歌い手にはオリジナルを歌うという概念がありません。モーツァルトなどによってそれこそ何百年も前に作曲された同じ曲に対して、いろいろな演奏家が自分の解釈を披露するものです。それでも僕はオリジナルへの憧(あこが)れが強かったので、お正月のドラマ「徳川風雲禄」の主題歌のお話をいただいた時にお受けしました。

――その作詞作曲は、やはり紅白出場で注目された馬場俊英さんですね

馬場さんは僕とは全く違うジャンルで活躍していますが、この新しい出会いが作り上げる未知数の音楽がおもしろいと思いました。それに僕と馬場さんは同い年。それだけで親近感を持ちました。小学生の時、僕が初めて買ったレコードが沢田研二さんや世良正則さんでしたが、同じような音楽を聞いて育っただろうなとか(笑い)。僕はこの曲のあるべき姿よりも、秋川の歌い方を意識して壮大に歌っています。馬場さんは全く違う歌い方をされると思うので、ぜひ彼にも歌っていただきリスナーの方に聞き比べていただきたいですね。「千の風になって」も百種類以上のCDが出ているそうですから。

四国の熱い血がたぎる

――秋川さんが歌を本格的に始めたのは中学校3年生の時だそうですね

はい。父が音楽家だったこともあり、自分はテノールの声で絶対にうまく歌える自信があった。実際コーラスで声を出してみたら、これはいける!と。それで声楽家を目指すことを決め、世界3大テノールのレコードを聞き自分の将来はこれだと思っていました。全く現実が見えていなかったですね(笑い)。

――でも高校時代は応援団だったとか

カッコいいと思ったんです。それにクラシックの勉強をしていることで「おぼっちゃま」に見られるのが嫌でした。自分の中に通っているのは四国の熱い男の血だと。僕の出身は愛媛県西条市ですが、当時「ビー・バップ・ハイスクール」が流行(はや)りでした。ガラの悪いものがカッコいいと、僕も憧れて髪はリーゼントに眉を剃(そ)って、スエットを着てつっかけサンダルをはいて。その感性のまま音大への進学で上京したら、東京は違っていた。音大ではめちゃくちゃ浮いてしまって、全くモテなかったですね。

――留学も失恋がきっかけとのうわさです

留学自体は前から行くつもりでしたが、きっかけは片思いを続けていた女性にふられたことです。大学院修了後、約4年イタリアにいましたが、喉(のど)を痛めて帰国することになりました。扁桃腺(へんとうせん)が腫れた後、声に雑音が入るようになってしまったんです。帰国して医者に診てもらっても最初はどこが悪いかわからなくて。病院を渡り歩きようやく原因がわかったものの、神経がたくさん集まる舌の付け根の手術なので、すごく難しいとまた断られ……。結局、3度の手術をして治るまで2年かかりました。

(写真)秋川雅史さんプロフィール

1967年生まれ。テノール歌手。愛媛県西条市出身。国立音楽大学大学院修了後、イタリアへ留学。帰国後、98年にカンツォーネコンクール第1位、日本クラシック音楽コンクール声楽部門最高位を受賞。2001年「パッシオーネ〜復活の歌声〜」でCDデビュー。05年に発売したCD「威風堂々」に「千の風になって」を収録し、06年NHK「紅白歌合戦」で「千の風になって」を熱唱。シングル化された「千の風になって」で、クラシック歌手として初めてのオリコン1位を獲得した。

お知らせ
最新アルバム「千の風になって〜一期一会〜」が、4月2日より発売中!

秋川雅史さんのクラシックの歌い手である使命感として、「名曲を歌い継ぐ」という精神、また「クラシックをより身近なものにしたい」という願いが具現化された1枚。「5月のバラ」「地上の星」「ワインレッドの心」「旅立ちの日に」「美幌峠」「イヨマンテの夜」など、世代を超えて支持される日本の名曲をモチーフに構成されている。注目は話題のシンガー・ソングライター馬場俊英さんが書き下ろした、秋川さん初めてのオリジナル曲「鼓動」。また2006年の紅白の時のバージョンで歌い上げた「千の風になって」が収録されている。

  • 価格/3000円(税込み)
  • 問い合わせ先/
    (株)テイチクエンタテインメント
    TEL03-5778-1707
「千の風になって〜一期一会〜」
こちらから購入できます
現在、敢行中の秋川雅史さんの全国コンサートツアーやリサイタルの最新情報は、公式ホームページのコンサート情報で。

公式ホームページのコンサート情報
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