大学卒業間近にオイルショックに見舞われ、就職が本当に厳しい時代になってしまったんです。どうしたものかと途方に暮れていたときに、劇団員の青春群像を描いたドラマ「俺たちの祭」を見て、「ああ、劇団って楽しそうだな。あんなふうに暮らせたらいいな」と。それで、「ぴあ」を買って「大江戸新喜劇旗揚げ公演」を観(み)にいったんです。そうしたらめちゃくちゃ面白くて。芝居をやった経験もないくせに、帰り際に受付で「劇団に入りたい」と申し出ました。その後、オーディションを受けて入団。そのときの主演が三宅さんでした。彼が1年後にSETを創(つく)るというので、「大江戸〜」を出てSETの旗揚げに参加したんです。
こんなに芝居って難しいのか、というのは劇団に入ってから知りました。「あれ?」というたったひと言のセリフがうまく言えなくて、毎日何十回も「あれ?」ばかり言い続けたり、あまりに演技が下手で降ろされ、その代役が当時のマネジャーだったりとか。でも、生活そのものは本当に面白くてね。アルバイトの後、稽古場へ行って芝居の練習をして。終わったらみんなで酒を飲んで語り合う。舞台が始まる前はみんなで道具や衣装を作る。一年中、大学祭をやっているような気分でした。
面倒くさがりで、一度どかっと座ってしまうとなかなかよそへ行こうとしない性格。引っ越しもほとんどしないし。だから、この世界に入ってしまったので他に移れなかった、というのが正直なところ。それと、ある人の言葉も大きいです。
劇団に入って間もなく、南千住でアルバイトをしていたときです。駅から会社まで15分ほど歩いて通っていたのですが、途中ホームレスの人たちがいてね。その姿を毎日見ていたら「僕は、このままでいいんだろうか?」と、将来に対してちょっと不安を感じてしまったことがあったんです。役者として売れるかどうかもわからないし、役者でやっていけないからといってホームレスになるのも嫌だったので。それで、すごく尊敬する大学時代の先輩に連絡し、酒を飲みながら話を聞いてもらったんです。そうしたら先輩が、「俺は、お前が芸能界で成功するかどうかわからない。でも、お前は前を見てるから大丈夫だ」と言ってくれたんです。
本当に救われました。「そうかあ、この先どうなるかわからないけれど、前を向いて歩いていけばいいんだな」と思うようになったし、それ以降も、ちょっと気持ちが折れることがあってもその言葉を思い出して乗り切ることができました。
もちろんです。大先輩であり、先生という感じです。舞台で演じているときも、三宅さんは役のことを考え自分も楽しみながら、同時にお客さんのこともちゃんと冷静に見ている。僕もそういうところがあるのですが、たぶん、それは三宅さんの影響が大きいです。
そうです。三宅さん自身まだ無名でしたが、そのときからもうお客さんを手のひらで転がすように笑わせていたから。メジャー感がありました。当時から、「俺についてこい!」的な風を吹かせていたし、オーラもあった。三宅さんみたいになりたい、三宅さんと2人で舞台に立って、丁々発止で渡り合い、お客さんを笑わせたい。最初はそんなことが目標だったほどです。
劇団結成当初のころは、稽古の後、ほとんど毎日みんなでお酒を飲みに行っていたのですが、そこで「お前さあ、あそこはこうしたほうがいいよ」なんて三宅さんに指摘されているだけで、芝居がうまくなった気がするほどでした。
いやあ、とくにないですよ。ただ、芝居って何でも勉強になるし、経験が役立つじゃないですか。たとえば、家で料理してもその経験が必ず芝居のどこかで生きてくる。その意識があるせいか、仕事とかプライベートとかに関係なく、経験することすべてが何でも楽しく思えてしまうんですよね。稽古ぐらいかなあ、「ああ、つらいなあ、嫌だなあ」と思うのは(笑い)。

サックスです。妹が上京し一緒に暮らすため、ボロアパートからもう少し良い所に引っ越すことに。その際、事務所から引っ越し代金としてお金を借りたのですが、少し残ったので「せっかく借りたんだから欲しかったトランペットを買おう」と思い、とある楽器屋へ行きました。で、その店のおじさんが「トランペットを今からやるの? そりゃあ、大変だ。トランペットは一生懸命やっても1年でドレミファが吹ける程度。サックスなら1年で3曲は吹けるようになるよ」と。そう語るおじさんの唇には、うっすらと丸くマウスの後が。「ああ、こんな唇になってしまうのか」と思い、サックスに急きょ変更し、買ったわけです。その直後に、テレビ番組「笑っていいとも」のクイズコーナー「サックスは最高!」という仕事にめぐり合え、さらにそれがきっかけで、サックスを吹いて出演するCMが決まったんです。いろんな実を結んでくれたサックスになりました。
僕のギターの先生。僕はミュージシャンに憧(あこが)れる気持ちが強いせいか、ついつい高額なギターを買ってしまいます。そのたびに「趣味なら1本でいいでしょう。どうしてそんなに必要なの?」と妻にしかられます。で、そのことをその先生に話したら、「そうなんです。なかなか理解してもらえないですよね。僕なんて『私とギター、どっちをとるの?』と聞かれ、ギターって言っちゃって。奥さん、出て行っちゃいました」って(笑い)。結局、離婚されちゃったんだけれど、その先生はいつも楽しそうでね。カッコいいなあって思う。憧れます。僕なんてとてもじゃないけれど、妻に「ギター」なんて絶対に言えないですから。
山際淳司さんの「スローカーブを、もう一球」。読んだのはもう十数年前。ストレート球で三振をとるのも1アウト、スローカーブで、ごてごての球で三振をとっても、1アウト。人生の歩み方と重なる部分もあり、「ゆっくりでいいじゃないか」と言ってくれている感じが好きです。
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