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ひとインタビュー自分の生き方を全うできるのは母の教えがからだの中にあるから 第七十二回 工藤夕貴さん

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真実味を求めて、本当の女を演じる

彼女のオフィシャルサイトにこんな一文があった。「ハリウッドの喜びも、畑にいる喜びも、同じもの」。27歳でハリウッドへ渡り、国際派女優として活躍。かと思いきや、2005年帰国後は、国内外の作品に精力的に挑みながらも、富士山麓(さんろく)で自給自足の生活を実践する。あくまで幸せの基準は自分の中にある、独立独歩の人である。そんな工藤夕貴さんが主演する映画「春よこい」が6月7日から全国公開となる。

(取材・文/井上理江 写真/田中史彦 ヘアメーク/丹羽喜久乃)
――「春よこい」は脚本を読んだときから心惹(ひ)かれるものがあったそうですね

「母と息子」という普遍的なものがテーマ。きっといい映画になるだろうなという可能性を感じました。ハリウッドから日本へ戻ってきたときに、「あなたの子どもを抱きしめてください」というテレビCMが流れていて驚いたことがありました。親として子どもにどう接していいのかわからない人が増えているわけですよね。だからこそ、家族愛がテーマのこの映画を通して、大切な「何か」を伝えられるのではないかと思いました。

――主人公芳枝は、逃亡犯で行方のわからない夫への変わらぬ愛を秘め、息子のためにひたむきに日々を生きています。演じるうえで工夫されたことは

耐え忍ぶだけの女性では人間味がないし、私自身が共感できない。ダンナを信じて待ってはいるけれど、心のどこかで疑う気持ちもあり、なぜ私たちを置き去りにしておくのかという鬱憤(うっぷん)もたまっている。でも、抱えているものがいっぱいあるからこそ頑張るしかなかった。それが芳枝の「本当」だと。その「本当」の彼女の気持ちを正直に表現するよう努力しました。

印象的な泣き叫ぶ雨のシーン

――芳枝が泣き叫ぶ雨のシーンは女性として共感しました

私もあのシーンは大好き。誰にも愚痴一つ言えず、4年間耐え忍んできた芳枝の感情が、最後の最後に爆発したわけですが、そういうところがないと生身の人間っぽくないでしょう。とにかく真実味を追求したくて、監督とも何度も話し合いながら一つひとつのシーンをつくり上げていきました。

――ロケの合間に、息子ツヨシ役の小清水一揮君とイカ釣りをしたり、現地の人にタコのさばき方を教えてもらったりしていたそうですが

小清水君に「今日は母ちゃんが晩ご飯つくるけん」と言って一緒にイカ釣りをしました。はたからは遊んでいるようにしか見えなかったと思うのですが、私としては遊び兼役づくり。死にたいほどつらい現実があったとしても、人間はそのつらさを忘却のかなたに追いやって、小さな喜びを見つけて笑うし、楽しんで生きようとするもの。それこそが生身の人間の姿だと思うんです。だから、カメラがまわっている、いないに関係なく、芳枝とツヨシはこんなふうに笑って暮らしていたんだろうなって思う日常を過ごすようにしていました。

――それぞれの複雑な気持ちが丁寧に描かれている映画だと感じたのは、そうした私たちが知らない現場の日々があったからなのでしょうね

海を見つめるツヨシがぽつんと「お父ちゃんの顔を忘れると思ったから」と言い、そばにいた芳枝が「わかってるよ」と答えるシーンがあるのですが、そのときのツヨシの手の握り加減が本当によくって。実際、画面には映ってないのに、ツヨシは目にいっぱい涙をためていました。気持ちがちゃんとそこにあったわけです。そういう細部まで登場人物の誰もが心を配り、「本物」を演じようとした。そこがこの映画の魅力になっていると思います。ぜひ多くの人に観(み)てほしいですね。

(写真)工藤夕貴さんプロフィール

東京都生まれ。「逆噴射家族」(84)で映画デビュー、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞。「台風クラブ」(85)の好演でも注目され、「戦争と青春」(91)では日本アカデミー賞優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞を受賞。89年、ジム・ジャームッシュ監督の「ミステリー・トレイン」に抜擢(ばってき)され、その演技でインディペンデント・スピリット賞主演女優賞にノミネートされる。その後も「ピクチャーブライド」(94)、「へヴンズ・バーニング」(97)、「ヒマラヤ杉に降る雪」(99)、「SAYURI」(2005)、「インプリント〜ぼっけえ、きょうてえ〜」(06)、「佐賀のがばいばあちゃん」(06)、「ラッシュアワー3」(07)、「L change the World」(08)などの国内外の映画に出演。日本・イラン合作映画「風の絨毯(じゅうたん)」(02)では、出演のほかアソシエートプロデューサーも務めている。さらに、17年ぶりの日本映画主演となる「春よこい」が今年6月7日より全国ロードショー。

また、05年3月よりロサンゼルスから静岡県の朝霧高原へ居を移し、自給自足の生活を実践している。

お知らせ

工藤夕貴さん主演映画「春よこい」6月7日より全国ロードショー

家族のため殺人を犯し、逃亡した父修治。9歳の息子ツヨシは4年たった今も大好きな父の帰りを待ちわびている。その切ない心を優しく包む母芳枝もまた、さまざまな感情を抑えながらも修治の帰りを待ち続けている――。

舞台は昭和晩年の佐賀県唐津市呼子。昭和への郷愁誘う海辺の風景と、父を待つ母と息子の心情が折り重なって、なんとも切なく胸を打ちます。信じる心から生まれた至上の家族愛をぜひ劇場で。

  • 出演/工藤夕貴、西島秀俊、時任三郎、小清水一揮、宇崎竜童ほか
  • 日時/2008年6月7日より全国ロードショー
    ※佐賀のみ5月24日より先行ロードショー
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