若いとき、串田和美さんの「自由劇場」で「役者の仕事は、作品に貢献することだ」とたたき込まれました。だから、常に作品に貢献するにはまずどうすればいいかを考えます。よく「主役を食うにはどうしたらいいんですか?」なんて聞かれるんだけど、それは観(み)た人が決めること。もし、本当に主役を食っているとしたら、むしろ失敗ですよ。主役と脇役っていうのはバランスよく存在しなくちゃいけないしね。
ありませんよ。こんなクシャクシャな顔を誰もアップで見たくないでしょうし、喜ばないでしょ(笑い)。スクリーンの、観客から見えない空間を映画用語でオフというのですが、このオフをお客さんは自然に想像していると思うんです。で、僕はお客さんの、この想像力をもっと信じたいんです。たとえば、小説は1枚も絵がないのに、頭の中で映像が浮かぶでしょ。それと同じ。たとえ俳優の後頭部しかスクリーンに映っていなくても、お客さんはどんな表情をしているか想像しているはず。スクリーンに出過ぎなくても、ちゃんと見て、感じてくれていますよ。
映画は、基本的に監督のものです。出来の良しあしも監督の力が大きい。舞台は、本の力、演出の力、役者の力が均等です。時には役者がつくりあげていくところもある。でも三者の力が発揮されると、それが大きなうねりになって、あたかもレンガを積むように作品が向上していき、よりよい舞台になっていく。三者の間で、「うるさい!そんなことをいうなら書かないよ」「いや、そうじゃなくてさ」みたいなけんかや感情のぶつかりあいがあるほうが、断然面白くなっていくしね。そこが舞台の魅力だと思っています。
えっ、芝居好きだと思いましたか?本当は僕、映画俳優って呼ばれたいんですけれど(笑い)。でも、所詮僕は映画俳優と呼ばれたい舞台人でしかないのかなって、最近思っているのですが。
亡くなったおふくろの影響かな。とにかく活動写真が好きな人でね。僕を連れて「ちょっと実家へ」なんて言って、姑(しゅうとめ)の目を盗んでいそいそと映画館へ出かけ、食い入るように見ていました。その姿が忘れられなくてね。だから銀幕というものに故郷、あこがれがあるのかもしれない。今は僕も映っているんだと思うと、スクリーンの裏側で母親が見てやしないかとかさ。そんな、ちょっとロマンチックというか、センチメンタルがあるわけですよ。まあ、ただのマザコンなのかもしれませんがね(笑い)。
まさかとも思いますが、ものによっては主役になりえると思います。老人だとか。じいさんのロードムービーなんて、いいんじゃないかな。舞台では、昔から「シラノ・ド・ベルジュラック」をやってみたいと思っていました。とても聡明で知識も豊富で、腕も立つ。演説はさわやかで人望もある。まさに男の理想なんだけれど、容姿がみにくいからロマンスに関しては何もできない……。ちょっと寅さんみたいなところがあるかなあ。とにかく男がほれる役です。
もう、つぶしがきかないだろうという確信があるのと、演劇がすてきな商売だと知ってしまったからでしょう。芝居も映画も人が作ったもので虚構の世界。なのに、お客さんは本気で笑い、本物の涙を流してくれる。中には、「映画で人生が変わった」なんて人もいる。そういう力が舞台や映画にはある。昔、舞台「上海バンスキング」でラッパ吹きの役をやったんですが、それを中学生のときに観て「ああいうラッパ吹きになりたい」と思い、実際にトランペッターになった人がいて、後にあいさつにきてくれたんです。いやあ、感動しました。役者の拙(つたな)いラッパに、そこまでの思いを抱いてくれたってことが無性にうれしかった。同時に、それだけ人の人生に多分に影響を与える仕事なんだから、僕は自負と責任を持ってやっていかなくてはいけない、そう思いました。
とくにないです。わりと何でも広く浅くのタイプ。しいて挙げるなら、子どもたちの成長かな。4人の息子がいます。上から今年で17、15、13、11歳。そろそろ思春期で、音楽に興味を持って吹奏楽部で頑張っている子もいて。今はそんな子どもたちを見ているのが一番面白くてね。
「お父さんのまねをしなくてもいい、何をするにしても、自分が熱くなれるものが見つかるといいね」っていう話はします。僕自身、とにかく舞台や映画がただただ好きで、好奇心をくすぐられてこの仕事を続けてきました。若いころは金銭的に苦しく、兄貴にお金を借りたり、いろんなアルバイトをしたり。でも、好きなことを続けてきたからこそ、今の自分があるわけです。子どもたちもそれでいい、夢中になれることを見つけ、続けてくれたらと思います。

現実的に一番高いのはやはり家です。子どもの教育にお金をかけるつもりはないですし。自分のために、という意味では「無駄遣い」。子どもたちと一緒におもちゃ屋さんなどへ出かけてはしょっちゅうおもちゃを買っています。子どもがいらないといっても「買ってあげる、買ってあげる」と。実は自分がほしいから(笑い)。でも、この「無駄遣い」が精神的にとても良い癒やしになっています。
津川雅彦さん。遊びに関するこだわりはすごい。しかも、遊びが美しい、きれい。ちょっとまねできない。それと、中井貴一さん。オーソドックスな二枚目に、とてもまじめに取り組んでおられる。「もっとおちゃらけてもいいんじゃない?」と言ったりするのですが。あえて二枚目に徹しているとのこと。そのこだわりもやはりすごいなと思います。
コリン・ウィルソン著「アウトサイダー」(集英社)。大学生のときに先輩に勧められて読みました。高校時代、人間や自分に対してさまざまな疑問があって、同級生は誰も答えてくれなかったのですが、この本には、知りたかった答えすべてが書かれていました。
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