172センチの長身と気品ある美貌(びぼう)を生かし、宝塚歌劇団の男役として一時代を築いた麻実れいさん。退団後はミュージカル、古典など幅広いジャンルの舞台を中心に活躍する。外国人を演じることが多いが、実は神田明神近くで生まれ育った生粋の江戸っ子。「刀剣金具の職人だった父の背中を見て育ちました」
そんな麻実さんが出演する舞台「山の巨人たち」が始まる。真摯(しんし)で丹念な役作り、一作品ごとに丁寧に取り組む姿勢は、職人だった父親譲りに違いない。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)
ノーベル賞作家ピランデルロの遺作で未完の戯曲です。現実と夢、芸術性と人生など対比的なものが神秘的にちりばめられていて、本当に大人のためのおとぎ噺(ばなし)という感じ。摩訶(まか)不思議でステキな世界が描かれています。今の私たちが見落としている大切な何かを改めて感じさせてくれる、刺激的な作品です。
なかなか出会えない繊細な役だけに私自身ドキドキしつつもとても楽しみ。この作品は現実とは異なる摩訶(まか)不思議な世界の話ですが、抽象的であってそうでないところもある。それぞれの複雑な気持ちや行動がうごめきながら物語が進んでいくので、キャスト全員の存在がとても重要。演じる側がしっかり役をつかんでいないといけないという思いはありますね。
そうなんです。舞台に急傾斜の橋がかかっているのですが、途中で切れているんです。その上にハイヒールで立って芝居をするんです。最初はあんな場所で果たして芝居ができるのかしらと不安でしたが、ラヴォーダンさんの演出で歴代この役を演じてこられた海外の女優さんもなさってきたことなので、できないなんて言えないですよね。日本の女優として意地でも頑張ります(笑い)。
どの舞台でもそうですが、あらかじめセリフを入れておきます。で、本読みで疑問を演出家に投げかけて解消し、他の役者さんたちの声を聞き、そこでどんどんイメージを膨らませていきます。そして立ち稽古(げいこ)が始まり、稽古を何度も重ねながら作品と、自分の役の色を塗り上げていくような感じです。
舞台は総合芸術。演出家、スタッフ、プロデューサー、そして役者それぞれの生身の魂がぶつかりあって作り上げていくもの。緊張感の中、みんなで一つの作品を構築していくところが何よりの魅力であり、それが舞台の味になります。とくに「山の巨人たち」は独特の色味、匂(にお)いがあるファンタジー作品なので、必ずや多くの方に楽しんで頂けると思います。
宝塚好きの姉の勧めで、わけもわからず入団したので、現実と夢がぶつからなかった。それが良かったですね。末っ子の甘えん坊だったのですが、宝塚で更生させてもらったというか、本当に育ててもらったなあと感謝しています。
音楽学校1年目の予科のとき、健康診断のため劇場の奈落にある医務室の前に並んでいたんです。そこを「ウエストサイド・ストーリー」に出演する月組の男役の先輩たちがサーっと通り過ぎてね。その瞬間、なんてステキな女性たちがいるんだろう!って感激してしまって、それで突如ギアが入って、私もステキな男役になりたいと強く思うようになりました。
特別、男役のための指導はないんです。上級生の演技を見ていろんなところを頂いて、あとはもう自分で重ねて自分らしい男役の「肉」をつけていく感じです。他には歌舞伎の立ち役や映画などもよく観(み)て参考にしました。「風と共に去りぬ」のレット・バトラー役のときは、ビデオを観てクラーク・ゲーブルの手をポケットに入れるしぐさや後ろ姿の哀愁漂う感じなどを必死で研究し、取り入れさせてもらいました。

東京・神田生まれ。1970年宝塚歌劇団に入団。75年「ベルサイユのばら」のアンドレ役に抜擢(ばってき)され、80年雪組のトップスターとなる。85年に宝塚を退団。以後、ミュージカル「シカゴ」を皮切りに「マクベス」「ハムレット」「蜘蛛女のキス」「二十世紀」「サラ」「オイディプス王」「桜の園」「黒蜥蜴」「夏の夜の夢」「かもめ」などミュージカル、古典、翻訳劇など数多くの話題作に出演。多くの演劇賞も受賞。最近では2004年に第54回芸術選奨文部科学大臣賞受賞、06年紫綬褒章受章。また、04年7月にはカルチュアル・オリンピアード(芸術オリンピック)参加作品としてギリシャ・アテネの古代劇場ヘロデス・アティコスで「オイディプス王」を公演。06年には英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー主催のフェスティバルに「タイタス・アンドロニカス」で、07年には米国ニューヨークを含む東部主要都市を「AOI/KOMACHI」で巡演するなど海外の舞台でも活躍する。
新国立劇場2008/2009シーズン〈演劇〉 『山の巨人たち』 2008年10月23日(木)〜11月9日(日)
ノーベル賞作家ピランデルロの最高傑作にして未完の戯曲「山の巨人たち」が、新国立劇場の舞台に登場します。演出にはパリの名門オデオン座の前芸術監督ジョルジュ・ラヴォーダンを招聘(しょうへい)。日本のえりすぐりのキャスト陣との夢のコラボレーションが実現します。
「山の巨人たち」は、人生と芸術、現実と夢というコントラストが神秘的にちりばめられた、大人のためのおとぎ噺(ばなし)。この未完の戯曲を演出家ラヴォータンがいかに創(つく)り上げ、どんなエピローグを迎えるのか。また、旅一座の女優で、正気と狂気のはざまを行き来するイルセという女性を、麻実れいさんがどう演じるのかも見どころのひとつ。
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