とんでもない。10代は勢いで進めたのですが、20代になった途端に減速してしまい、疾走感を失ってしまった。どんなにいい仕事をしても終わった途端自信がなくなり、焦ったり不安や迷いが生じたり。その繰り返しでした。そんなときに体験したのが自分の子どもの誕生でした。完璧(かんぺき)な人間の姿で赤ちゃんが生まれたときの衝撃は大きかった。そしてほぼ同時期に尊敬していた松田優作さんが亡くなって。「死ぬってどういうことなんだろう?」と真剣に考えました。
優作さんの死に際には美しさがあったので、結局、よりよく死ぬことはよりよく生きることなんだと思いました。子どもを授かった直後だったこともあり、見守られる側ではなく、自分が大人になり見守る側として精いっぱい生きていくということをしなきゃいけないんだ、と教えられた気もしました。
子どもが生まれたとき、あまりにうれしくて優作さんに「かわいいでしょう、うちの子」なんて言って顔を見せたら、優作さんが「殺すなよ」とひと言。有頂天だったから冷や水を浴びせられたようにショックを受けて。でも、それは決して「首を絞めたりするな」ということではなくって、親が子どもの行く手を阻むな、生きようとするものの可能性をむやみにつぶすな、っていう意味だったんです。最近の凄惨(せいさん)なニュースを見ていて、ふと思い出したことなんですが。
若いころは、「自分は一番だと思っているのにどうしてみんなは認めてくれないんだろう?」とか、「なんで私におもしろい作品がこないんだろう?」と文句ばかり。いつも怒っていました(笑い)。それが変わったのは30代になってから。自分の表現力の素晴らしさを知らしめるために芝居をするんじゃなくて、言いたいことが言えなかったいろんな人たちの思いを、作品を通して代弁することが女優の仕事なんだ、と思うようになったんです。そうしたら才能がどうとか、全体の出来なんてどうでもよくなってしまったんです。それ以降、どんな役もおもしろくなったし、大事にするようになりました。演じるうえでもその人の心の動きを感じ、理解することを大切にしています。
今の自分をすべて使えることでしょうね。「愛を乞うひと」という作品に出演したとき、それまでの自分が生きてやってきたすべてを出していいんだって思ったんです。さらけ出すのは怖いんだけれど、心地いいんでしょうね、きっと。
やはり黒澤さんとか、勝新太郎さんといった人たちとの出会いがあり、「愛を乞うひと」のような作品との出会いがあるからだと思います。とくに、黒澤さんの作品に出させていただいたのは20年近くも前のことなのに、昨日のことのようにすべて鮮明に覚えているんです。それだけ強烈なひとときで、深く私自身にしみこんでいるんです。そんな体験をしているがゆえに、新しい出会いをまた求めてしまうから続けている。すごい出会いってめったにないだけに、どこか賭けみたいなところもあって、余計にワクワクするというのもあります。
存在感、説得力のある女優でありたい。映画ってセリフひとつとっても、単に芝居がうまい下手ではなく、その人の品性、誠実さが浮き出てしまう。中途半端な俳優だったりするととても陳腐になってしまうわけです。それだけに、ふだんから心の在り方や何をどう見つめるか、そして真摯(しんし)に生きるということを、ちゃんとやっていかないといけないと思いますね。

子育てですね。お金やモノではないですが、子どもが小さいころは毎日とにかくものすごいエネルギーを費やしてきた、という意味で。現在は、上から大学2年生(長男)、高校2年生(長女)、中学2年生(次女)。ずいぶん大きくなってくれたので、あとひと息なのですが。
やはり黒澤明監督ですね。「こだわりがある」どころじゃなくて、もう超越した存在です。どの作品も今、観(み)てもおもしろいですし。映画「夢」でカンヌ映画祭へ監督と共に出かけたときのこと。監督が賞をいただき、オマージュとして20分くらいのフィルムが上映されたんです。最後に「七人の侍」のワンシーンが流れたのですが、そのとき初めて、そのシーンにセリフがないことに気づいたんです、私。それまで何度も「七人の侍」を観ていたにもかかわらず。ふだんから監督は「無声映画のようにシーンを考えるべきだ」と話されていましたが、無声であれだけの迫力を出してしまうなんて。本当にすごい監督でした。
「小説 田中絹代」(新藤兼人著)、「私一人」(ローレン・バコール著)、それとイングリッド・バーグマンの自伝「マイ・ストーリー」。23歳のとき、一番悩んでいたときに読んだ3冊です。
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