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夢見る力を持つことが大切

長い間、自ら立ち上げた劇団で劇作家、演出家、役者など一人何役もこなしてきた渡辺えりさん。現在は、舞台をはじめ、テレビドラマやCMに至るまで演技力が光る女優として、独自の視点とユーモアセンスを併せ持つコメンテーターとして、新たな挑戦の時を過ごす。そして、芝居に限らず、定期的なコンサートを企画・実行するなど、何事にも常に本気で真正面から挑むゆえに、実は傷つくことも多いという、彼女の演劇とこれまでの人生、そして未来に託す思いを語ってもらった。
(取材・文/田中亜紀子 写真/小山昭人)

――次のお芝居は来年1月29日からの「えれがんす」。脚本の千葉雅子さんは人間の「バカ哀しさ」を表現するとか

千葉さんの芝居には、以前から興味があり、いつか機会があればご一緒したいと思っていたんです。独特の毒気というのか鋭いところがあって、その設定や視点が、おもしろくていつも大笑いしていました。今回の稽古(けいこ)はまだまだ先で、まだ完成台本が手元に届いていないんですが、千葉さん独特の世界が、私たちを材料にどういう風に仕上がってくるのか楽しみなんです。

50代で新しい出会いにわくわく

――出演者も個性的な方が多いですね

おばさんが多いんです(笑い)。木野花さんは同時代を一緒に頑張ってきた先輩なのですが、私の劇団の芝居に出ていただいたことが何度かあって、先輩に対して失礼ですが、ものすごく努力家なんです。ある芝居の初演の時に、歌うシーンの出来栄えにご自身で満足せず、それから声楽家について約2年ボイストレーニングに通って、再演に臨んでくださったことがありました。それと、韓国から参加のコ・スヒさんは、韓国でも多くの映画に出演している演技派女優さんです。日本では昨年、数々の演劇賞をとった「焼肉ドラゴン」に在日韓国人のお母さん役で主演して、これが本当に素晴らしくて。まだ30代前半の若い方なのに驚きました。ぜひいつかご一緒したい!と芝居を見た後に話していたら、千葉さんにしても、スヒさんにしても、こんなに思いがけず早く機会に恵まれて、50代にして新しい出会いが、いろんな形で具体化していくのは本当に幸せだなと思います。

――夏に出演した「楽屋」の戯曲を書いた清水邦夫さんもあこがれだったとか

私が山形で高校の演劇部にいた時からのあこがれです。当時、私がいた町の本屋には演劇の専門雑誌が1冊しか入荷されないから、いつも演劇部の友人と奪い合いでした。その頃は取り寄せる知恵もなかったので、清水さんの戯曲が載った号を友人が購入した時は、借りて手書きで写したほどでした。「楽屋」では小泉今日子さん、村岡希美さんや蒼井優ちゃんなど、年代の違う女優さんと一緒に過ごす時間が本当に楽しかったんです。全員が本が大好きで、探究心にあふれる読書家ぞろい。芝居を追求すると同時に色々な本の話をしながら、あっという間に公演が終わった感じ。キョンキョンは新聞で書評を担当しているくらいですし、優ちゃんも公演中に一生懸命に本を読んでいるから「何読んでるの?」と聞いたら、なんと谷崎潤一郎の「卍」! 今時の若者は谷崎を知らない人も多いのに。彼女たちは言葉が豊かだから今時の若い人と話している気がせず、まるで高校の演劇部の友人と話しているようで、同年代の気分でした(笑い)。

――現在、渡辺さんはご自身の「劇団宇宙堂」を休止中ですね

約2年前に活動を休止し、今の私は女優として他流試合をしている、いわば充電中。この間のいろいろな出会いを吸収して、自分のオリジナルな物語がまたできればと思っています。他の作家の作品を演じることで、どんどん自分のやりたいことも膨らんできますね。今はいろんなことがやりたい時期なのでバラエティー番組に出ることも楽しんでいますよ。でも、楽しいばかりになってもだめだし、重たい話ばかりでも大変だし、バランスをとることが大切ですね。ただ、私はどんなことでも死ぬ気でやっちゃうんですよ(笑い)。

――そもそも演劇に目覚めたのは

子供の頃、近所の様々な年齢の子供たちといつも神社の境内で遊んでいたのですが、ある夕方、私がかくれんぼの鬼になって「もういいかい?」と待っていたら、いつの間にかみんな家に帰ってしまっていて。誰もいなくて真っ暗で、その時言葉では表せない孤独な感情が生まれたんです。祖母が迎えに来ておぶってくれましたが、いつもなら安心するのに、この日初めて祖母と自分とは別の人で、人間は「個」だとわかった。物心がついたんですね。さらに人は誰もがいつか死ぬこともわかり、それがすごく怖くなったんです。でも、物語を考えている時だけは寂しさを意識しなかったので、死の恐怖を昇華するために私は物語を作るようになったんだと思います。

――昔の東北は語り部も盛んでした

私の場合は、母が毎晩、枕元で絵本を読んでくれたことが大きいです。母は毎朝4時に起きて家の農作業をし、その後農協に勤めに行って帰ってくるので、疲れ果てて絵本を読みながら寝てしまうんです。私は途中でやめられるのが嫌で、母をゆすって起こして。それでもだめな時に物語の続きを自分で考えるようになり、その癖が今も続いているんですね。子供時代は歌も芝居も踊りも文章を書くのも好きで、それを全部できるのが演劇の世界と思い、高校は演劇部の活動に熱中しました。卒業後、演劇学校に通うため上京しましたが、実はもう一つ、大ファンだったジュリー(沢田研二さん)と結婚したい!という大きな目的もあったんです(笑い)。

(写真)渡辺えりさんプロフィール

1955年山形県生まれ。高校時代から演劇を始め、73年に舞台芸術学院に入学。卒業後は劇団青俳の演出部に所属。78年に劇団3〇〇(さんじゅうまる)を結成し、劇作家、演出家、役者として多くの話題作を送り出す。83年にNHKテレビドラマ「おしん」の兄嫁役で注目を集める。98年に劇団3〇〇を解散するが、2001年に新しく劇団宇宙堂を立ち上げ07年に活動休止を宣言。現在は、女優、演出家、執筆活動、音楽活動など幅広い分野で活躍中。「ゲゲゲのげ」で岸田國士戯曲賞を最年少で受賞以降、紀伊國屋演劇賞、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞など受賞歴多数。現在、TBSの「情報7days ニュースキャスター」にレギュラーコメンテーターとして出演。

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