穏やかな語り口に時折鋭い感性を光らせる。「大人計画」を主宰し、作家、演出家、俳優、映画監督と多方面で活躍を続ける松尾スズキさん。最近は東日本大震災のことをつい考えてしまうというが、こんな時だからこそ、演劇が人々の心の逃げ場所みたいなものになれたらと思い、日々活動にいそしむ。
今年6月中旬からは同じ「大人計画」の宮藤官九郎さん作・演出の舞台「サッドソング・フォー・アグリードーター」に出演する予定だ。「40歳過ぎの俳優中心の舞台ですが、オッサンの笑いもなかなかいいもんです」
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)
宮藤自身、一人娘を溺愛しているので、娘が大きくなってとんでもない男を連れてきたらどうしようって考えるんでしょうね。そんな父親の悩みが如実に反映されている脚本です(笑)。
宮藤のセンスが好きですし、信頼しています。どれもおもしろいから最悪の結果にはならないという安心感もあります。彼の場合、芝居で表現しようとすることの密度が濃いんです。笑いの要素も多い。一つの作品における笑いの密度を自分の作品と比較し、反省することもあります。
唯一嫌なのは、宮藤は僕が出演する場合、僕にものすごく比重を置くこと。出番が多くてセリフが多くなる。疲労困憊(こんぱい)したくないのでそれを何とか分散してくれないかと(笑)。ドSなんです。僕と岩松さんが対決をするのですが、そういうシチュエーションを持ってくること自体がもうドSだし。宮藤の作品では、動きたくないと思っている俳優ほど動かされる傾向にありますね。
そうですね。ただ、例えばクレージーキャッツやザ・ドリフターズ、タモリさんなどのお笑いはジャズから生まれてきたものですよね。宮藤はロック。僕は兄貴がフォークを聴いていて、自分としてはクラシックから民族音楽、テクノまで聴いてきたわけですが、ロックは通過していないんです。この音楽性の違いが、笑いのセンスの違いに影響していると思うこともあります。
東日本大震災の日、揺れた瞬間には道を歩いていたのですが、周りの知らない方々と心が通ったというか、一つになれた気はしました。共通の敵の前ではわかり合うって言いますからね。そんなふうについ震災のことを考えてしまいますが、不謹慎なものごとに過敏になっている部分もある一方で、大多数の人が想像以上に善の方向に傾いていることは、本当によかったなと思います。

1962年福岡県生まれ。作家、演出家、俳優、映画監督。88年に「大人計画」を旗揚げ。以降、主宰として作・演出を手がける他、自らも出演。「ファンキー!〜宇宙は見える所までしかない〜」で第41回岸田國士戯曲賞受賞。最近の舞台作・演出作は「女教師は二度抱かれた」(2008年)、「サッちゃんの明日」(09年)、「母を逃がす(再演)」(10年)、「欲望という名の電車」(11年)など。舞台以外にもジャンルを超えて多方面で活躍。俳優としては映画「カイジ 人生逆転ゲーム」(09年)、「悪人」(10年)、「まほろ駅前多田便利軒」(11年)、テレビドラマ「熱海の捜査官」(10年)などに出演。11年2月から放送されたドラマ「TAROの塔」では主役の岡本太郎役を務めた。小説も執筆しており、著書多数。「クワイエットルームにようこそ」(05年)は芥川賞候補作品となり、07年に自ら監督を務めて映画化している。10年には「老人賭博」を出版。映画「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(07年)では脚本を担当し、第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を獲得している。
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