NHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」のヒロインが決まった時、家族はテレビを新しく買い替えるほど喜んでくれた。「そんなふうに身近な人に楽しんでもらえる女優の仕事っていいなと思いました」と貫地谷しほりさん。その笑顔には愛くるしさと人を包み込むような温かさがある。映画やドラマでの活躍が目立つ彼女だが、今秋は井上ひさしさん作の舞台「泣き虫なまいき石川啄木」に挑戦。逆境の中、女の意地を貫く啄木の妻・節子を演じる。
(取材・文/井上理江 写真/森浩司)
初めて脚本を読んだのは稽古(けいこ)に入る1、2カ月前ですが、読み終えてすぐに段田さんに「早く稽古に入りたいです」とメールをしました。セリフのやりとりがおもしろいし、いろんなことを考えさせられる魅力的な作品だったので。ト書き一つひとつにもきっと意味があるんだろうなと思い、稽古前から一人であれこれ想像を巡らしていました。
今年初め、三谷幸喜さん演出の舞台「ろくでなし啄木」を観(み)たのですが、あの作品では浮気相手と友だちとの旅行の話。今回の啄木は家族との話です。「ろくでなし啄木」のほうは、啄木が周りを翻弄(ほんろう)していますが、今回の「泣き虫なまいき石川啄木」は才能がないと悩んだり、妻に家出されて自殺を考えたり、やっかいな家族に翻弄されたりと結構情けない感じ。どちらも本当の啄木だと思うのですが、それぞれの作品から感じる啄木像があまりに違うので、啄木は人によって自身のいろんな面を使い分けていたのかなと思ったりしました。ただ啄木に限らず、誰でもそういうところってありますよね。ある人には自分の弱い部分を見せても別の人には見せないとかって。
一途で強くて度量の大きな女性です。おそらく啄木の浮気も知っていたはず。それでもなお夫の才能を信じて支え続けたわけですから。啄木にとっては妻であり、母のような存在だったのではないかと思いました。
母カツはかなり強烈なだけに節子はつらいけれど、決して耐え忍んでいるだけの嫁でもない。一概にどちらが悪いとは言えない関係ですよね。
うちの父はいわゆるマスオさんです。先日、私が実家で祖母特製のスープを飲んでいたら、父が帰ってきて「あれ、おばあちゃんは?死んだか?」って。そうしたら奥の部屋から祖母が大声で「生きてるよ!」って(笑)。もちろん冗談ですよ。義理の関係でも一緒に暮らすうちにそんな感じになっていくというか、同居ってそういうことかなって思うんです。もちろん、うちと石川家では事情も違うのですが、節子とカツも憎み合っているからではなく、家族だからこそ、こんなふうにやり合えるのかなと。
吾郎さんは吾郎色(笑)を醸し出していて、それが妙に啄木のイメージと合っていて、啄木ってきっとこんな感じなんだろうなと思わせてくれます。単に夭折(ようせつ)の天才としてではなく、一人の生身の人間としての啄木を吾郎さんを通して感じ取ってもらえるはずです。

1985年東京都生まれ。中学2年の時にスカウトされ、2002年に映画デビュー。以降、映画、ドラマ、CM、ナレーションなど幅広く活躍。特に映画「スウィングガールズ」「夜のピクニック」などで注目を集め、07年NHK朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」でヒロインを演じ、全国的に人気を得る。08年エランドール賞新人賞受賞。最近の主な出演作として、ドラマではNHK大河ドラマ「龍馬伝」(10年)、「バーテンダー」「遺留捜査」(共にテレビ朝日、11年)、「華和家の四姉妹」(TBS、11年)、映画では「パレード」(10年)など。また、舞台は04年の初舞台以降、「理由なき反抗」「労働者M」「余命一ケ月の花嫁」などに出演している。公開待機作に映画「僕達急行A列車で行こう」(12年3月予定)がある。
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