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オファーは来た順に受ける

――監督が好む役者の共通点などはあるのでしょうか

そういうことはあまり考えません。キャスティングは基本的にプロデューサーに任せています。実は子どもの時から何か願っても物事が思い通りにいったためしがないんです。そもそも映画監督だって僕が意図したことではなく、たまたま映画監督を育てることを放棄した映画界が、助監督として現場を経験してきた僕に白羽の矢を立てただけ。日々、助監督をやっていたので映画監督のフリぐらいはできるだろうと考えて。つまり、自分で願って何かが叶(かな)ったこともないし、周囲に流されて監督業に就いただけというのもあり、自分から何かを望んだり、要求するっていう感覚が希薄なんです。

――オファーを受けた順に撮影していくというのは本当ですか

そうです。基本的に来たもの順に取り組んでいきます。そういう運命にあるのに、本来あるべき流れというものを、自分の意志や意地みたいなもので変えてしまうのはかえって不自然な気がして。流されていくことが僕には大事に思えるんです。その上で、巡り合う人には巡り合うわけだから。

――モノ作りの現場においては、自分の思いや個性を通したくなるものですが

個性なんて意識したら終わりですよ。昔「これが自分にとっての映画監督像だ」「こんな演出であんな映画を作りたいんだ」と言う先輩たちがいましたが、「それは本来の自分の個性ではなく、あこがれでしょう」って思っていました。そういうあこがれを持つのはたぶん本人にその力がないから欲しがっているにすぎないんですよ。

――では、監督が思う個性とは

その人が我を忘れるほど夢中になっている時、あるいは切羽詰まりそこをどう乗り切るか、どう妥協するか、どう逃げるかといった、追い詰められた状態になった時に個性ってポッと出てくるものだと思います。第一、自分らしさなんてほっておいても自分の中にあるものだし。

もちろん、好きなものしか撮らないとか、生き方が変わっている人は個性的な映画を撮ります。ただ、僕らみたいに仕事として、それで食っていきたい職業監督にとって「僕はこうだ」「こんなふうになりたい」という思いは意味がないんです。一緒にやっているスタッフにとっても、映画を観(み)る人にとってもそれは迷惑なこと。だから、僕なんてもう何本撮っても今日のことでいっぱいいっぱいだし、次はこんな役者で、こんな作品が撮ってみたいななんて欲求はない。来たものに対して真摯(しんし)に向かうだけです。

――過激なバイオレンス描写や激しいアクションが多いことでも有名ですが

いや、まだまだバイオレンスを映画では描けていないと思っています。特に肉体に関して映画はゆるいうそしかつけないし、それが宿命だと少しあきらめています。絵描きが解剖学を通過しているように、僕らもきちんと関節や筋肉を理解した上で、ここをこう刀で切ると筋肉がこんなふうに露出して、これぐらいの血が出て、この辺りの神経がやられる、というのを生々しくありのまま描きたいのですが、映画では限界がある。そこがはがゆくもあるのですが。

――アクションシーンに関しては

例えば殴り合いのシーンでの脇役というのは、殴られ、いかに主人公が強いヤツかを表現するという役割を担っていたりします。でも、その人だって人間であり、「ただ殴られるだけでは悔しいだろうな」と思うわけです。だったら、せめてすぐにやられるのではなく、何度か立ち上がるとか、素手ではだめなら武器を持つようにして戦わせるとか、殴られる方にも愛情を掛けて演出します。すると、出来上がったものは結果的にバイオレンスになるんです。そこが個人的にはすごくおもしろいところだと思っています。

思春期の挫折が原点

――三池監督ならではの価値観を形成したものは何だと思いますか

先ほども少し言いましたが、子どもじみた夢をいっぱい抱えていた中高生の頃、いろいろ挑戦したわけですが、ことごとく叶わなかった。その挫折経験にある気がします。願って努力すれば叶うというのも自己実現の在り方だし、心を律して夢に向かう行動は尊いことだと思う。でも実際、僕の夢が叶うことはなかったので自分から欲したり、期待することがなくなったように思います。

――例えばどんな夢が叶わなかったのでしょう

ラグビーが好きで全国2連覇の高校にスポーツ推薦で入ったのですが、レベルがまったく違っていました。痛みとか恐怖を全然感じない選手がいて。足の速さなど技術は追いつけてもあの精神の鍛えられ方に近づくのは無理だと思いました。その後、バイクが好きでレーサーを夢見てサーキットに走りに行ったのですが、1、2周した途端、「ああ、僕には無理だな」って。そんなことが立て続けにあったせいか、大学へ行くのも面倒臭くなり、映画の学校へ行くしかなくなりました。無試験だったし、親元を離れることができるんだから、「こりゃいいや」と思って(笑)。

――それが映画の世界への入り口

学校には行かずに知り合いに誘われて現場へ入ったのが最初。それまで映画は非日常の世界へ誘ってくれたり、疲れた時にホッとする瞬間を与えてくれるものでした。でも、いざ現場に入ったら映画を作る行為そのものが逃げ場所であり、癒やしの場になった。だから、僕が作品を撮らない理由は何もないです。唯一、逃げやすい場所だったんでしょうね(笑)。

――影響を受けたのは

今村昌平監督。助監督として映画作りに参加させてもらったことがあったのですが、自分でプロダクションを作り、企画も脚本も監督もすべて自分でやり、24時間映画漬けの日々を送る今村監督を見て圧倒されたのと同時に「ああ、この生き方は僕にはできないな」と思いました。マネできる要素がないんです。

――では、どうしたいと

監督の真逆でいこうと。あそこまでできないからこそ、僕はせめておもしろい現場を作っていこうと思いました。そのスタンスが結果的に僕の生き方にもつながっていくんだろうなと。しいて言えば、それが僕らしさなんでしょうね。だから、監督ってふつうノーと言い、NGを出すのが仕事ですが、僕はイエスしか言わない。「ラブストーリー? いいですね」「アイドルを撮る? 僕がですか? いいですねえ」「低予算? いいですねえ」ってね(笑)。自分のカラーと違う、やりたいことと違うと言って「できない」と断るのではなく、どんな条件でもまずは「まあ、とにかくやっていこうよ」と受け入れる。そこからどうしようかあれこれ考えながら進んで行く。その方が僕は楽しいし、確実におもしろい映画になるんですよね。

(更新日:2011年10月14日)

(写真)三池崇史さん3つの質問
質問1
これまでの人生で最大の買い物(投資)は何ですか?

両親の家ですね。意外とふつうでしょ(笑)。

質問2
こだわりがある、という生き方をしていると思う人を挙げてください

ここ何年かマイブームになっているのは、映画美術の林田裕至さん。「クローズZERO」という作品の撮影で出会って以来、「ヤッターマン」「クローズZERO供廖崕住或佑了謬辧廖崘Δ燭淪霏析此廖△修靴董岼賁拭廚砲盪臆辰靴討發蕕辰討い泙后B翹椶ら感じた世界を表現するためには手段を選ばない。予算がないからといってあきらめたり、やめたりすることはなく、とにかく作る。その仕事への姿勢が好きです。自分の描いたイメージに対して徹底的にこだわる、とても魅力的なデザイナーです。

質問3
人生に影響を与えた本は?

「トム・ソーヤーの冒険」(マーク・トウェイン著)。小学1年生の時、両親が「賢くなって欲しい」と願い、高学年が読むような分厚い本を買い与えてくれたんです。3段組みで文字ぎっしり。当然1年生には難しすぎて読めません。でも、買ってもらったものなので、学年が変わるたびに読もうと思って挑戦するんですが、2ページ目でいつも挫折。それがいまだにトラウマになっています。小説って怖いものだなって(笑)。それだけ強烈でしたね。今でもトム・ソーヤーって聞くだけでビクッとします。

アンケート 今回のインタビューについて皆様の「声」をお聞かせください。

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