今や、演技派として映画やドラマになくてはならない俳優、阿部寛さん。そんな彼には、「いい男のアべちゃん」としか見てもらえず、長く苦しんだ時期があった。そのような苦境から、彼はどのように立ち上がってきたのだろう。
(取材・文/田中亜紀子 写真/小山昭人)
作品の中の彼は東京・日本橋署の所轄刑事です。連続ドラマ「新参者」の時から人形町で収録をしていますが、今回はまるで故郷に帰ってきたような思いになりました。商店街の人たちも「おかえり」と受け入れてくれたし、あの街にスーツ姿で立つと自然と加賀に入っている。まるで実在しているかのような感覚になる。連ドラ「新参者」は、1冊の原作を10回分に分割して作ったので難しい面があったのですが、今回の映画は約2時間。原作通りにできるのはある意味チャンスだと。何より映画は大画面で集中して見ていただけるので、加賀を始め、それぞれの登場人物の奥深くまで見せられる作品になったと思う。
僕が若い頃は、刑事役はアクションが多くさわやかなイメージが強かったので、型にハマリたくなかった。あえて避けていました。まだ他にいろいろな役、むしろ犯罪者や被害者、人間の弱い部分、普通な部分などを表現していきたいという気持ちがあったからです。でも、自分も年齢を重ね、いろいろと無駄な経験を積んでいくにつれて、徐々にやってみようと思えるようになり、この役のお話をいただき、やることになりました。
彼のスゴいところは、事件を解決するだけじゃなくて、そのあまりにも細部にわたる捜査のため、その事件にかかわったすべての人の心をときほぐし、被害者や遺族の思いを救うまでやり遂げるところ。今回の映画「麒麟の翼〜劇場版・新参者〜」では、中井貴一さん演じる父親が被害者となった家族を描いていますが、親子関係のぎくしゃくは実際にどこの家庭にも少なからず起きるもの。事件と並行して、家族の姿や心を解き明かしていく加賀は、まるで視聴者に語りかけているように謎を解いていく。
もの静かな中に、鋭い眼光を持つ刑事特有の雰囲気の加賀。僕が子供の頃、家に刑事が聞き込み捜査に来たことがあったんです。物腰は柔らかでも目の奥が鋭くて。その経験を生かし、加賀はとても優しげだけど、実は怖さがある、そんな風に演じています。

1964年横浜市生まれ。中央大学在学中に「集英社第3回ノンノボーイフレンド大賞」に応募して優勝。その後、雑誌「メンズノンノ」のモデルとして活躍。87年に映画「はいからさんが通る」で俳優デビュー。93年つかこうへい作・演出の舞台「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」の主役を全国各地で熱演し、演技派俳優として開眼。94年の「凶器ルガーP08」などで日本映画プロフェッショナル大賞・特別賞を受賞。その後、多くのテレビドラマや映画に出演。ドラマは「TRICKシリーズ」「アットホーム・ダッド」「ドラゴン桜」「結婚できない男」「坂の上の雲」「新参者」など。映画は「チーム・バチスタの栄光」「歩いても歩いても」「青い鳥」「天国からのエール」「ステキな金縛り」など多数。
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