演劇ユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を主宰し、劇作家・演出家・俳優の三役をこなして活躍する長塚圭史さん。 初めて戯曲を書いたのは17歳の時。決して意図したわけではなかったが、物語の軸が家族になっていた。以来、ことあるごとに家族劇に向き合っている。3月に上演されるテネシー・ウィリアムズ作「ガラスの動物園」もまた、追憶の中で生きる切なく哀(かな)しい家族の物語だ。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)
かつて家を捨てた青年トムの記憶の中には今なお家族、特に姉ローラが生きている。ずっと前のことなのに、匂(にお)い立つように思い出してしまう。おそらく彼女を置いてきてしまった時のエネルギーが深く脳裏に刻まれているんでしょう。そもそも人間って記憶の塊みたいなものですしね。そんな彼の思いを追憶という形で表出させ、物語を進行させているところに非常に演劇性を感じました。普遍的な家族の話であり、どうあがいても断ち切ることのできない家族の縁というか、業を色濃く出している部分にも惹(ひ)かれました。
トムは彼自身で、ローラは実姉がモデルだと言われています。おそらく書くことで、精神障害を持った実姉に対する自分の行動を自ら許そうとしている、もしくは整理のつかないままでいるという苦悩に酔っている、そんな印象を受けました。その心のいびつさが僕は好きですね。といっても、これはあくまでも僕なりの解釈、読み方でしかないのですが。
戯曲の中に余白を見つけ、その部分をどう解釈し、料理していくかという面白さがあります。それと、現代社会があまりに情報化されてしまっているがゆえに、日本の戯曲では変にリアルすぎて入り込めなかったり、そこに普遍性を感じるのに時間がかかったりすることがある。
でも、海外の古典戯曲なら時間的にも空間的にも、ちょっと距離を置いて客観的に観(み)ることが出来る。それゆえにその世界に没頭しやすい、入り込みやすいというところはありますよね。また、個人的には自分の作品ではないので、作家としての変な緊張や心配がないのがいいですね(笑)。

1975年東京都生まれ。早稲田大学在学中の96年に演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を結成、脚本・演出・出演の三役をこなす。2000年深夜枠のドラマ「shin-D」の脚本で好評を得る。俳優としても活躍の場を広げ、映画「ゲロッパ!」(03年)などに出演。04年には「リアリズムの宿」で主演を務める。04年の舞台「はたらくおとこ」の作・演出、「ピローマン」演出で朝日舞台芸術賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。さらに05年に作・演出した「ラストショウ」で読売演劇大賞優秀作品賞を、06年には「ウィー・トーマス」の再演で読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞。08年文化庁・新進芸術家海外留学制度にて1年間ロンドンに留学。11年新プロジェクト「葛河思潮社」を立ち上げ、第1回公演「浮標(ぶい)」を上演。12年は「ガラスの動物園」の他、「テキサス―TEXAS―」(作)、「音のいない世界で」(作・演出)などの上演が予定されている。
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