飄々(ひょうひょう)とした中にも知性とユーモアが漂う。ほのかな大人の色気もこの人の魅力。俳優・小林薫さん。その実力は折り紙つきだ。
特にドラマ「深夜食堂」で演じた、静かなたたずまいのマスター役によってさらに人気は上昇。どらく世代をはじめ、若い世代からも憧れの存在だ。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)
何でしょうね。昭和テイストなところがいいんでしょうか。ただ実際、ドラマの立ち上がりの時、松岡錠司監督と、昔の久世光彦さんのドラマ「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」に登場する飲み屋みたいな感じがいいよねっていう話はしていたんです。
久世ドラマには必ず飲み屋の場面が1シーンか2シーンありました。「時間ですよ」では篠ひろ子さんが赤ちょうちんのおかみで、寡黙な藤竜也さんがカウンターの隅に居て、わけありの男女の雰囲気を漂わせていたり、あるいは「寺内貫太郎一家」では、由利徹さんや伴淳三郎さん、左とん平さんたちが美人ママの居る居酒屋の常連で、シブい男が来ると、何げない振りをして様子を探ったり、みたいな。そういうシーンを少し拡大した感じで、30分枠のドラマにできないかなと松岡監督に相談したら、すごく面白がってくれて。そこから「深夜食堂」の世界観が始まったというのはあります。
ああいう世界が今、急速に消えていますよね。それはテレビだけではなくて、街からも昭和の香り漂う建物やお店がどんどん減っています。とはいえ「深夜食堂」の舞台はあくまで現代で、昭和に設定しているわけではありません。でも、町の様子も登場人物もどこか懐かしい。まあ、どちらかと言えば、トレンド的な雰囲気ではない役者が多かったこともあるのかもしれませんが(笑)、とにかくほどよい感じの懐かしさが、うまく再現できているドラマだと思います。
ちょっとよそいきの言葉で表現すると、すごく出来のいいバーテンダーみたいなものです。例えば男女のカップルが入ってきて二人だけの話をし始めたら、気配を消してしまう。その一方で、一人で寂しそうな客に対してはさりげなく「こんなのどうですか?」と、その人のその時の気分に合ったお酒を出す。大人のバーテンダーは、そんな具合に客との距離感が絶妙でしょう。そういうバーテンダー的目線、気配りがこのマスターにはある。だからこそ、あの独特の空気感を醸し出せているんだと思います。

1951年京都府生まれ。71年から80年まで唐十郎主宰の状況劇場に在籍。退団後、映画、ドラマ、舞台、CMなどで幅広く活躍。映画「それから」(85年)で日本アカデミー賞やキネマ旬報賞などの最優秀助演男優賞、「秘密」(99年)で日本アカデミー賞主演男優賞、「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(2007年)で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。その他、主な映画出演作に「阿修羅のごとく」「歓喜の歌」「休暇」「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「海炭市叙景」「軽蔑」など多数。ドラマでは向田邦子作品、久世光彦作品への出演多数。最近では、NHK連続テレビ小説「カーネーション」など。また、2000年からテレビ東京「美の巨人たち」(毎週土曜夜10時〜)のナレーターを務めている。
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