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喜んでくれる観客が僕の原動力

取材を始めようとした瞬間、「朝日新聞、読んでますよ」と渡部篤郎さん。「天声人語が好きです」。穏やかな口調が周りを温かく包み込む。想像以上に柔らかく、朗らかな人。

しかし、映画「外事警察 その男に騙されるな」では一変。国益を守るためには非情な手段も辞さず、最後まで何を考えているのか分からない主人公・住本に成り切っている。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)

――2009年秋に放送されたNHKドラマ「外事警察」は、そのクオリティーの高さから結構評判が高く、コアなファンを生み出し、ウェブ上でも続編や映画化を望む声が多かったそうですね

「結構」どころではありません、「ものすごく」評判が良かったんです(笑)。とにかく視聴者の方に評価され、そこからの新たな発展ということで映画化が決まったわけですから、喜びもひとしおでした。

――ご自身が思うこの作品の魅力は

「外事警察」は国際テロを秘匿捜査する特殊部署で、実際に存在する課でありながら秘密のベールに包まれていました。そのタブーを打ち破り、誰も手を付けることのなかった世界へ踏み込んでいったところが、この作品の一番の魅力になっています。一般的な刑事ドラマとは一線を画しており、捜査方法や尾行の仕方まで普通とは全然違うのも見どころの一つ。今までにない、新しいエンターテインメントとして存分に楽しんでもらえるはずです。

――映画の撮影に入る際、ドラマとはどう変えていこうと

いや、僕は逆です。映画だからこうしようとか、今度はこんな感じでというのは一切なく、むしろドラマのイメージを大事にして演じたいと思いました。その方が「外事警察」ファンの方々にも喜んで頂けると思ったので。

正義という悪で立ち向かう

――渡部さんが演じる住本健司は、任務のためなら手段を選ばない冷酷な男という印象がありますが、ご自身は住本をどんな人物と捉えていましたか

僕の中ではあくまで強い正義感を持ったヒーロー。いわゆるダークヒーローみたいなイメージはありません。住本は、恐らく犯罪という悪を防ぐためには、正義という悪で立ち向かうしかないという感覚だと思います。悪に対してはさらなる悪がないと防げないという。だから、違法寸前のギリギリの部分で際どい手段を使ったり、人を騙(だま)したり、弱みにつけ込んだりしていきます。とはいえ、誰かを犯罪者に仕立て上げているわけではありません。どんなに非情でも、それはあくまで国益という大きなものを守るために彼が取っている手段でしかない。そんなふうに僕は理解しています。もちろん、正直つらいところもありました(笑)。例えば弱った人間から情報を得るために、「薬漬けにしろ」と命令したりするシーンがあるのですが、個人的にはこんなやり方しかないのかって思いましたから。

――冷酷なわりには、住本にはどこか人を惹(ひ)きつける力があります

実際、今回の協力者・奥田果織(真木よう子さん)も、住本に弱みをつけ込まれ、あそこまで怒りの感情を爆発させながらも、結局は住本を受け入れスパイ行為を実行します。でも住本にそれができるのは、協力者を騙しているからではなく、反対にすごく愛しているからなんです。その意識はテレビの時からずっとあって、今回もそういう気持ちで協力者に向き合うようにしました。

――今回、協力者となった真木さんの魅力は

長く俳優をやっていると、台本の読み方や全体の起承転結のつけ方などをつい経験値で進めてしまうところがあります。ところが真木さんは違います。台本の枠をはるかに超えたところから、どんどん湧き上がってくる感情のままにその役を演じている。当然それに対して僕も返していかないといけないですから、いつもとは違った感覚で芝居に臨めました。そういう意味で彼女には、改めて「演じる」ということを学ばせてもらった気がします。素晴らしい女優さんです。

(写真)渡部篤郎さんプロフィール

1968年東京都生まれ。91年に五木寛之原作ドラマ「青春の門」で主演デビュー。92年に「橋のない川」で映画初出演。95年映画「静かな生活」で第19回日本アカデミー賞優秀主演男優賞と新人俳優賞をダブル受賞。その後、数多くの映画やドラマなどで活躍。2006〜07年、全編フランス語による完全二人芝居「La pluie d`ete a Hiroshima」をフランス6都市で全66回公演。さらに10年には、「コトバのない冬」で映画監督デビューを果たすなど活躍の場を広げている。主な映画出演作品は「スワロウテイル」(1996年)、「愛する」(97年)、「ケイゾク」(2000年)、「狗神」「大河の一滴」(01年)、「最後の恋、初めての恋」(03年)、「阿修羅城の瞳」(05年)、「愛のむきだし」「重力ピエロ」(09年)、「岳―ガク―」「ハードロマンチッカー」(11年)など。最新作「The Flowers of War」(日本公開未定)が世界公開中。現在、ドラマ「市長はムコ殿」(BS朝日 月曜22時〜)が放送中。

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