凛(りん)とした美しさ、品の良さを感じさせる。柔らかな声とどこか寂しげな雰囲気のせいか薄幸な役も多いが、こちらが思わずドキリとするような迫力ある演技も見せる。今や映画やドラマには欠かせない存在感あふれる女優、木村多江さん。11月14日公開の映画「ゼロの焦点」でも、人に翻弄(ほんろう)されながらもひたむきに生きる女性を演じている。
(取材・文/井上理江 写真/小山昭人)
時代に抗(あらが)い、男性に翻弄(ほんろう)されながら生きる女性たちが、しっかり描かれていると思いました。松本清張作品の登場人物は、いい人も悪い人も行動の動機が明確なので、ついどの人にも感情移入してしまいます。私自身も観(み)終わった後、「どうしてこんなにみんな悲しいの」と切なくなりました。
監督がフェデリコ・フェリーニ監督の「道」と「カリビアの夜」という映画のDVDを私にくださって、これらをイメージしてほしいと。全くタイプの異なる映画なのですが、どちらにもジュリエッタ・マシーナという女優さんが登場し、ひたむきに一生懸命生きる女性を演じていました。それを観て、久子像をイメージし、まずは純粋無垢(むく)であることをベースに演じようと思いました。
誰でも何かしら夢があり、「変わりたい」「もっとこうしたい」と思うものですが、久子は違う。人が喜ぶ姿を見て幸せを感じられる人。愛をもらうことはなかったのに、愛を与えることができる。どんなに人に裏切られても、信じることをやめない。その強さはすごいと思いました。
小学校で、中谷美紀ちゃん演じる佐知子と2人で「この道」を歌うところです。久子と佐知子の仲がグッと近づくシーンなんですが、実際に生で演じていて、グッと引き寄せられるものがあって。いまだにあの曲を聞くと、ちょっと胸がつまります。あのシーンは、実際の私が本当に過去に経験したのではないかと思うほど、自分と役との境が全くなかったんですよね。
私もこの作品を観て、何が正しくて何が間違っているのか、私はどう生きたいのかなど、改めて考えさせられました。受けとめ方はそれぞれだと思いますが、いろんなことを感じてほしいです。また、他にもステキな役者さんが数多く出演されているし、映像も美しいので、隅から隅まで楽しんでほしいです。

1971年東京都生まれ。昭和音楽芸術学院ミュージカル科卒。当初は舞台を中心に活動していたが、96年から女優としてテレビ、映画に進出。ドラマ「リング〜最終章〜」「らせん」の好演で広く注目を集める。その独特の存在感でドラマ「救命病棟24時」「大奥」「白い巨塔」「上海タイフーン」や、映画「花とアリス」「電車男」など、数多くの映画、テレビドラマ、ラジオ、CMなどに出演。2008年、初主演映画「ぐるりのこと。」では、日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、ブルーリボン賞主演女優賞、高崎映画祭最優秀主演賞など数多くの賞を受賞。特技はバレエ、ジャズダンス、タップダンス、玉乗り、日本舞踊(名取)。
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