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追跡!フロントランナー

信念と自らの行動力を信じて、各界で疾走する「フロントランナー」たちに迫ります。
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第一回 桝一市村酒造場取締役 セーラ・マリ・カミングスさん 〜酒造りの誇りを蘇らせた米国人「台風娘」〜

beフロントランナーロゴbeフロントランナー 2004年3月20日付紙面から
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木桶は「森の国」文化のシンボル。それが個性に

――日本文化のどこに魅力を感じるのですか

セーラ

米国は76年に「建国200年」を迎えました。そのとき小学生だった私は、日本には2千年近い歴史と文化があることを知り、驚きました。神秘的でした。その後、浮世絵、日本建築などを勉強して、特に江戸時代がファンタスティックに思えました。日本には、昔のいい文化と伝統を生活の中に生かす知恵がある。

――具体的には?

セーラ

たとえば、お正月の行事、日本酒など日本的なものには、それがいっぱいあります。01年8月から月1回開いている「小(お)布(ぶ)施(せ)ッション」は、知的で楽しい情報交換の場ですが、日本文化再発見の場にもなっています。

言葉の豊かさよ

――小布施でのセッション(集まり)と英語の「obsession」(こだわり)を掛けるなど、言葉遊びも好きですね

セーラ

「おやじギャグ」なんて言う人もいますが、違います。おしゃれだと思います。留学で大阪に住んでいたとき、「吉本」に通いましたよ。おカネはなくても笑いさえあれば生きていける。言葉で楽しめれば、生活も豊かになることを知りました。日本文化には、掛け言葉が多い。おせち料理なんて、その詰め合わせ。豆はマメに働く、昆布はヨロコブ……。

――古い酒蔵を改造したレストラン「蔵部(くらぶ)」もヒットしました

セーラ

社長は当初、酒蔵を改装して観光客相手に簡単な食事を出すところを、と考えていました。人件費の負担を軽くするためレトルト食品を活用するプランでした。それを知って、私は驚きました。良い日本酒を出そうという店が、レトルト食品だなんて、似合わないじゃないですか。

――着工5日前に、計画をひっくり返したとか

セーラ

酒屋が酒の文化を大事にしなくてだれがする。小布施の文化を発信するレストランでなくてはいけない。香港在住のホテルやレストランのインテリアデザイナーが改装のデザインを引き受けてくれました。杜氏(とうじ)が丹精込めたお酒にふさわしい和風の食事を、がコンセプトです。

途中で投げない

――まさに「台風娘」。社内にはすごく抵抗があったそうで

セーラ

何かやろうとした時、「難しい」「お金がかかる」などと理由をつけて、やろうとしないのは、どこにでもあることです。やらないための理由なら、すぐに100でも浮かびます。大切なのは、どうやったらできるか、知恵を出すことです。やる価値があれば、理由は一つしかなくても挑戦しなければ、つまらないじゃないですか。会社を説得してやらせた以上、途中で投げ出すわけにはいかない。どこまでも粘り強く、やり遂げるのが私の身上です。

――「女のくせに」と言われたこともあるとか

セーラ

しょっちゅうですよ。「男のくせに」と言い返したいところですが、女だから男だから、というのはおかしい。自分の信念をしっかり持っていれば、評判なんて気になりません。

――昔ながらの木桶(おけ)で酒を仕込もうと提案したのはなぜですか?

セーラ

灘の大手の造り酒屋に行った時、結構、昔の酒造りが知られていないのに驚きました。桝一(ますいち)でも、もう半世紀も木桶を使っていなかった。木桶で仕込むのが原点で、桶は日本文化のシンボル。森の国なのに手入れをしないから、山は荒れ果てている。森を再生させ、木桶を復活させる旗振り役は、桝一のような小さな酒蔵の方がやりやすいと思った。木桶につく微生物が微妙に作用して複雑な味が出て、それが昔は蔵の個性だったのですが、いまでは作業の楽なホーロー製に代わってしまっています。

――経営上のリスクも大きかったのではないでしょうか

セーラ

大杜氏(おおとうじ)の遠山隆吉さんが木桶仕込みを知っていたことも幸いして、桝一のお酒は好評です。問題は木桶職人の多くが高齢者で後継者がいないことです。

――なるほど。それで、どうしたのですか

セーラ

桝一だけでは木桶の市場が小さすぎる。だから、ほかの造り酒屋にも呼びかけて、02年1月に「木桶仕込み保存会」を立ち上げたのです。賛同する蔵がだんだん増えてきました。葛飾北斎の研究で欧米を回った時、ワインもコニャックもステンレスタンクから木製の樽(たる)に変えていることを知りました。樽で熟成させると個性のあるワインができるからです。作り手が誇りに思う食文化って、いいですね。

――いま取り組んでいるのは?

セーラ

桝二(ますに)プロジェクトです。桝一グループは「桝二」ブランドでみそ、しょうゆもつくっていたのですが、30年前にやめてしまいました。その跡地に宿泊施設をつくることにして、今年1月に着工したばかりです。長野市内で取り壊されようとしていた土蔵を移築し、改装します。名称は「桝一客殿」。作った時がいちばんよくて、年数がたつほど劣化する建物が多い中で、時がたてばたつほどよくなる格調の高い施設をめざします。それに、昨年から始めた「小布施見にマラソン」の2回目を今年も7月に開きます。

町の人のために

――小布施の観光振興や町づくりのお手本にもなっています

セーラ

「観光客にお金を落としてもらう」という言葉が嫌いなんです。どこにでもある観光地として名声を博しても、それは一時的なこと。それより、この小布施に暮らす人たちが、いい町になったなと思ってくれたほうがうれしい。東京なんかにない心のこもった施設や交流の場が小布施にはあるよ、と町の人々が自慢したくなるような町づくりが目標です。

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