97年、翌年の長野冬季五輪に会社として貢献できるグッズを作ってみませんか、と社長の市村次夫さんに提案した。
酒造場の歴史と縁のある葛飾北斎の浮世絵・富嶽三十六景に蛇の目傘が出てくる。それを、五輪にちなんで赤、青、黄、黒、白の五色で150本という内容だった。
「白い雪に映える五色の蛇の目を想像するだけで楽しくなる。ものすごく美しく、日本らしい」
当初、市村さんは浮かぬ顔つきだったという。
「蛇の目傘をたくさん作れる職人なんていない。無理だろう」
それならと一人で動き始めた。
県内の傘屋さんを電話帳で調べて、30軒に片っ端から電話した。すべて断られた。和傘作りは骨組み、紙張り、漆塗りなど数人の職人集団でないとできないので、簡単にみつかるものではなかった。
くじけずに、他県でも探した。ようやく京都の和傘工房を見つけた。直談判したところ、引き受けてくれた。
「断られても断られても、粘り強くやったのがよかった。熱意と忍耐強さがあれば、たいていのことはできる、と学んだ」
小さな仕事だったが、得るものは大きかった。傘作り職人の見事な仕事に、強い感銘を受けた。
「頑固だけど良い仕事を成し遂げるために命を賭ける。能力と技と感性を組み合わせて形にする。職人仕事は、機械には置き換えられない魅力がある」
「日本はまねごとが多い、オリジナリティーがないと人は言う。けれど、そんなことはない」
振り返れば、酒造場にも杜氏(とうじ)、蔵人(くらびと)という職人がいる。普通の企業で言えば営繕担当にあたる、大工から左官まで何でもこなせる夫婦もいる。こうした日本の伝統的な職人の力が、自分の会社にも息づいていた。
「彼らを生かさぬ手はない」
この「職人力」への厚い信頼は酒造り蘇生への自信となり、その伝統文化である木桶(きおけ)仕込みの再開につながった。
「そして、ここの人たちが私を見る目も変わりました」
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