盛時の客足が戻ってきた。新開館3カ月の「新江ノ島水族館」。週末には入館を待つ列もできる。江の島の海底を思わせる「相模湾大水槽」のイワシ8千匹の群泳に家族連れが目を輝かせ、ブルーの水槽に浮遊するオレンジ色のクラゲの幻想的な光景をカップルが眺める。屋外では握手もできるイルカのショーに歓声があがる。
1954(昭和29)年開設、日本の近代水族館第1号とされる由緒正しい施設が、エデュテインメント、つまり教育と娯楽をテーマに再生された。
暗い館内、低くよく通る声が小柄でがっちりした体から飛び出してくる。話の中身も歯切れよく威勢がいい。風貌(ふうぼう)は、はやり言葉ならゴージャス。ひとを率いる総領の資質を感じさせる。
「DNAですかねぇ」と水を向けたら「とんでもない。父も義父もそんなもんじゃありませんでした。でも、そう言ってくださると光栄です」。
父は、財界政治部長と呼ばれた新日鉄の藤井丙午氏。義父は戦後日本映画の黄金時代を担った日活の堀久作氏。「父は秘書もおかず、その場ですべてをやらないと気がすまなかった。堀の父はきれい好きで厳しいひと。多くを教えられました」
館長はお嬢様育ちの名誉職かと思うと大間違い。経営難の旧江の島水族館を、当時日活社長で争議に追われていた夫に代わって義父から引き継いで30年、母校の立教大学で水族館学を講じ、岩波新書「水族館のはなし」も著した。今回は、神奈川県所有の土地に民間資本で新施設を建設する、PFIによる水族館再生をオリックスと実現させた。
「水族館は飼育ひとつとってもノウハウは属人的。それを大きな組織との共同事業を経験することで、持続可能な運営につなげたいと考えました」
学術的な館長と社長業を17年両立させてきた自負がそう語らせる。「水族館は生物の生態を展示して自然感を創出する場。運営も経営も頭だけではだめです。館員の声に耳を傾け、生物に接して、初めてお客様に喜ばれるアイデアがわいて来ます」
日に3度館内を回り、水槽の汚れなどを子細に点検。「近隣の漁師さんが、どんどん魚を運んでくれるのはいいのですが名前の表示が追いつかない。わかんないでしょ、もっと親切にと、つい口うるさくなって」
滑り出しは目標を10%上回るペース。三菱商事を核とするPFI型事業で14日開館した「岐阜県世界淡水魚園水族館」(同県川島町)の館長も務める。手腕を買われてのことだ。 「旧江の島開館は電力事情の改善で魚の生命維持が可能になった恩恵です。間もなく日活の「太陽の季節」が大ヒット、湘南海岸の大衆化が追い風になりました。わたしが引き継いだ時の苦境は、オイルショックによる手近なレジャー見直しに救われ、そしてPFIの波です」
冷静な世相観が幸運を呼ぶ。
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