――水族館が開館ラッシュです。今月も、岐阜と秋田の男鹿でオープンしました。その岐阜県世界淡水魚園水族館は、堀さんが江ノ島に続いて館長を務められます。旭川でも新設の円柱形のアザラシ水槽が話題です。なぜこんなに人気なのでしょう
環境の時代が来ました。ハイビジョンの番組にも自然をテーマにしたものが増え、多くのひとが楽しんでいる。水族館は大がかりになり、自然のままに近い形で展示できるようになった。水族館の本物と精密なデジタル映像が互いに補いあって、ひとびとの関心にこたえています。地道にやってきた成果をみる思いです。
――旧水族館は多くの人材を輩出し、「江ノ島人脈」と呼ばれるほど国内の水族館に人材を供給してきました。今回はオリックスなどと共同のPFIの取り組みに注目が集まっています。伝統の旧水族館からの移行はスムーズでしたか
日活社長だった義父の堀久作が湘南海岸をドライブしていて、ここに水族館をと興した旧水族館時代から株式会社でやってきた経験が生きました。新しい水族館の敷地は神奈川県所有の公園内で、旧水族館時代はイルカショーなどで知られたマリンランドがあった場所です。そこにBOO(ビルド・オウン・オペレート)と呼ぶPFIの手法で新築しました。オリックスなどと出資した江の島ピーエフアイ株式会社が運営にあたり、わたしたちの会社(江ノ島水族館を改組した江ノ島マリンコーポレーション)が飼育を委託されています。宮内義彦会長を存じあげていたので、オリックスにはわたしからお話ししました。
――公共の文化施設は、生き残りをはかるため、学芸員にミュージアムショップでおみやげを売らせるなど、経営感覚を持たせる発想転換に必死です
うちは飼育で入社しても、営業スタッフの仕事の大変さを理解させてきました。営業に出かけるとき、ハンドルを握るのは飼育のひとたちなのです。わたしはよく、お魚もえさをやらないと死んでしまうでしょ、それと同じ、企業だって生き物よと営業の大切さを説いてきました。
――その蓄積の役立つ時代が来た
湘南海岸はもともと民間の発想で運営してきた場所です。海水浴客のための駐車場の整備をはじめ、場所はみんな県の公園のなかですが、許可を受けた民間企業が力をつくして現在の姿があります。映画人の義父は、米国の映画会社のイルカ撮影スタジオを知っていて、特許事業に参入しマリンランドを建設しました。そんな経緯からもPFIには絶好の舞台でした。
――経営者となって30年、節目にあたる年に、水族館は新たな形態に移行しました。その間、景気の変動もあったのに海洋生物研究の支援者でもあった堀久作さんの「遺産」をよく維持された
義父が突然亡くなり、引き受け手も、後見人もなく、飛び込んだ世界でした。それまでは主婦しか経験がなく、どうしようかと思いました。21歳で結婚し、大学では社会学部で労務管理を研究しました。それをこの機会に実践してみようと考えたわけです。大学の卒業論文は、日活を取り上げました。労使関係を分析し、経営のあり方を探る内容でした。
――現実の経営にはどう落とし込んだのでしょうか
なにより年功序列をやめて職能給にあらため、やる気を引き出そうとしました。またプロジェクトチームをつくって、上部の意思が機動的にすべての職員に伝わるような体制に改めました。
――今でいう米国流のグローバル経済への対応を先取りするような話ですね。留学は?
いえいえ、わたしは主婦でしたから、米国にはバカンスでハワイに行って、アミューズメントのスケールの大きさを観光客として見たぐらい。だから悩みもしました。わたしの理論がうまく実践にあてはまらないのはなぜだろう、それでもうまくいかないはずがない、それにはもっと職員と語り合わなければと、肝に銘じました。水族館にCIの発想を持ち込んだのが、経営安定の助けになりました。
――CI、コーポレート・アイデンティティーですね。オーディオメーカーのトリオが、ケンウッドに衣替えして企業再生した話がもてはやされたのが80年代初めですから、これも先駆的ですね
旧水族館は決して大きくはなかったのですが、構成がしっかりしていました。カラーリングを赤、白、青で統一し、汽車窓式と呼ばれる旧来の小さな水槽の窓が整然と続く展示だけではなく、各場面がストーリーを持つ構成に改めました。装いを新たにすると十分に見栄えし、ここまで持ちこたえられました。
――著書「水族館のはなし」を読むと、ヨーロッパでも日本でも、水族館はずっと来館者の入場料で維持されてきた話が出てきます。近代の出発時点から、学術と経営を両立してきた施設というのはいかにも現代的です
江ノ島は首都圏という大きなマーケットがあるから自立可能です。日本中どこででも、というわけにはいかないのも事実です。岐阜の水族館も梶原拓知事に相談し、景気の変動が大きな場合には補助を受けられるという約束をいただきました。文化学術施設は今、経営感覚を導入する過渡期的な状況だから、無理を強いられる場面も起こりがちです。これから、それぞれの立地の事情にあった自活策や公共の援助策が模索されるべきだと考えます。
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