「この家の食事はバランスが悪い」
その客人は、こう言い放った。自宅でソーセージにオムレツ、手作りのワッフルにブルーベリーマフィンなどをふるまった朝食の席である。「何を言ってるの、この人」。さすがにムッとした。
米ミネソタ州に暮らしていた86年春のことだ。発言の主は能楽界の風雲児とも言われる大鼓(おおつづみ)奏者の大倉正之助さん(49)。旧知の能楽師松井彬さんの公演を見に行って、知り合った。野村萬斎さんらも一緒だった。「ホテルの食事は飽きたから朝食を食べに行きたい」と言われ、快諾した翌朝だった。
だが、大倉さんがその後に続けた話をよくよく聞くと、目を開かれる思いだった。「食べ物には陰と陽がある」「旬のものが体にいい」。大倉さん自身、有機農業の経験があり、玄米菜食をしていた。興味を引かれた。
そのころは、Tボーンステーキやケーキなどをよく食べていた。おなかがすいたら、おいしいものを食べる、という食生活。体調は絶好調とはいえなかった。
大倉さんが送ってくれたマクロビオティックの本をはじめ、自然療法、東洋医学などにも手を広げて本を読みあさり、玄米菜食を実践した。米は玄米、小麦粉は全粒粉。好物の肉や乳製品、砂糖や果物も徐々に断った。すると、便秘が治り、数カ月後には肩こりがとれ、冷え切っていた手足がポカポカしてきた。「食べ物を変えることで、体も変えられるんだ」。新鮮な発見だった。
米国の生協に加入し、有機栽培農家で農作業を手伝った。自ら家庭菜園で有機栽培にも取り組んだ。体と土はつながっている。2人の娘の出産、育児を通しても、確信した。
大学卒業後、商社で貿易業務に携わり、通訳もした。米国では日本語講師を、日本では英語講師をした。そんな経験も、生産者との接し方や検査リポート作成などにいきる。今も兄妹のような関係にある大倉さんとの出会いが原点となり、すべてが今の仕事につながっている、と思う。
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