「100年以上も町家を支えてきた美しい梁(はり)や大黒柱を壊し、再利用でトイレットペーパーにしてええんか」
京都市中京区の室町。市中心部の問屋街で町家をテナントビルに建てかえるという話に、普段から感じていた疑問が怒りとともに頭をもたげた。
「何億円も借りて建てても、間口が2間半では中途半端なビルしか建たないし、返済が終わるころにはメンテナンスが必要になる。ビルの寿命は短いですよ」。渋るオーナーを説得し、言い値で借りた。
当時は、京都市郊外の不便な場所にあった本社を移す場所を探していた。店をやるつもりはなかった。
とはいえ社屋には向かないし、ギャラリーでは人が来ない。考えた末、食事をしながら建物のよさを実感してもらおうと、おばんざい屋を開くことにした。「百足屋」の誕生は偶然の産物だった。
「町家の再生と保存を前面に押し出した店は、初めてでしょう」とは町家の調査・研究で知られる京都府立大の宗田好史助教授。「本来のたたずまいを見せるための工夫をこらした美しい町家」と話す。
当初、店には閑古鳥が鳴き、赤字が続いた。「問屋街のビルの谷間の、こんな古い家で料理屋やったってはやりっこないでえ」。友人たちに、あきれられたが、おばんざい研究家にレシピ作りを依頼し、本格派を目指した。メディアの紹介などで3〜4年後にやっと客が増え、経営が軌道に乗る。
これを足場に、町家ビジネスのコンサルタントや、町家再生などの設計監理をするくろちく総合研究所を開業。婚礼も手がけるなど事業を多角化し、「京文化の総合プロデューサー」として活躍するようになった。
懸案の本社移転は94年、百足屋の向かいで実現した。木造2階建ての町家風表屋の裏に鉄骨5階建ての展示場兼オフィスを建て「百千足(ももちたる)館」と名付けた。
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