――リゾート再建の手腕に注目が集まっています
教科書通りの戦略を打ってきました。アルツ磐梯はもともと、年間30万人以上集める東北最大級のスキー場。最大のシェアを持つ会社はシェアではなく市場を拡大させる必要があります。市場が大きくなれば、一番多くの利益が最大シェアのリーダーにくるからです。小学生にリフトを無料開放して将来のお客さんの獲得も目指しています。
――デフレ下で、様々な業種で価格競争が進みました
リーダーには必要ありません。リーダーが価格を下げると競合他社も下げる。シェアが変わらないとリーダーが一番損をする。スキー場の経営難が続くのは日本中が割引券を乱発しているからです。
――自社の置かれたポジションをみて、経営戦略を練ると
アルツは地元ではリーダー戦略を忠実にやっています。しかし、首都圏ではリーダーではない。そこでは、日本でもっともスノーボーダーにとって充実したスキー場として売り込んでいます。パンフレットも地元用と首都圏用の2種類があります。
――温泉旅館の再生にも通じる戦略ですか
同じですね。皆さん来てくださいでは、だれも来ない。誰のための温泉旅館で、どういうサービスを提供するのかというコンセプトを明確にする必要があります。だけど、自分がとるべき戦略を理論通り進めているところは少ない。
――教科書通りの運営を進めると、地方色が残る良き温泉の姿が失われませんか
むしろ逆で、今までの温泉旅館が失ってきたのではないでしょうか。石川県加賀市山代温泉にある「白銀屋」の改装コンセプトは「加賀モダン」。どこにでもあるような部屋だったのを加賀独自の美しさにこだわった。静岡県伊東温泉の「いづみ荘」は、伊豆半島ならではの食材を出している。チェーン化もしていかない。グローバル化が進み地域性が維持しにくい時代になっているが、観光産業は違う。地域文化を守ることが、お金になるのです。
――全国のリゾート地で働くユニットディレクターという役職がユニークです
部長やマネジャー職を廃止して、立候補制のポジションとしてつくりました。今よりいい方法があるなら、それをやりうる制度、人材に変えていこうということです。
――導入のきっかけは
90年代、増収増益を繰り返していたが、顧客からの評判が下がった。コンサルタント会社に分析してもらうと、人事の硬直化に問題があった。前年比の業績をみるだけでは人材の正しい評価ができません。
――週に3日以上休む正社員が全体の1割近くもいます
趣味と仕事のバランスは人まちまち。個人が自分と会社の関係はどういうあり方がハッピーなのかを決めればいい。子供が生まれればそのときだけ、家庭を重視したい人もいる。多様な仕事に関する価値観を共有できる会社でありたい。5日休みたい、というのもOK。給与は2日分になりますよということです。
――年功序列の給与制度もありません
年功序列では、高給の社員への期待が大きくなり、当人との間にズレが生まれると、会社との関係がおかしくなる。実力をつけたい、稼ぎたい社員だけ自己啓発して努力すればいいのです。成功報酬制度があり、提案したビジネスが成功したときには、向こう5年で入るキャッシュフローの5%を支払います。提案するかどうかもキャッシュフローの計算方式も自己申告制です。最高で共同提案の2人に1853万円を出したことがあります。
――同族会社ですが
同族会社は顧客と社員をみて、長期的な継続可能性を模索することができるすばらしい環境にあると思います。ライブドアの問題をみても分かるように、上場会社は時として経営者が株主、株価を気にしすぎてしまう。
――温泉の魅力は何ですか
畳で寝て、日本食をハシで食べる。知らない人同士が素っ裸で同じ風呂に入る。こんなすばらしいものは世界にありません。そこを改善すると、観光の貿易赤字を解消して世界トップクラスの観光大国になる可能性がある。
――今後の方針は
ゴールドマン・サックスとの枠組みで今後2、3年で30〜50件の温泉旅館の再生を目指します。リゾートは都市部の人が多く行く。だから、リゾート運営は本来、都市部でブランド力のあるホテルが担うべきです。日本の地方にも将来、外資系の都市ホテルが進出するはず。外資系ホテルと地方で戦うとき、温泉なら温泉旅館出身の私たちの方が有利です。この強みを生かす温泉旅館再生が、星野リゾートにとって戦略的に重要なのです。
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