「星野に行くと、殺される」
地元の職業安定所の入り口に落書きされた。91年ごろ、31歳で社長に就いてまだ間もないころだ。
3代目となった長野県軽井沢町の星野温泉(現・星野リゾート)。米コーネル大ホテル経営大学院で学んだ知識を生かして食事や接客の改善を進めたところ、現場から猛反発がきた。
ベテランの調理人は「30代の若造に何が分かるのか」。5人ほどいた調理人が一斉に辞めたこともあった。
その2年前、副社長として一度入社した。そこで見えたのは、同族会社にありがちな「公私混同」。株主の役員は厚遇されて居座っていた。敷地内に住み電気、水道代は会社持ち。改善を求めたが拒まれ、わずか半年で辞めた経緯がある。
戻ったのは会社側が「過去からの決別」を約束したから。しかし、依然、社内に残る総論賛成、各論反対に悩まされた。
父親の代から勤める人たちの退職は「価値観の違いがあり、むしろすっきりした」。だが、毎年のように何十人も辞めていくと、仕事が回らない。
人員不足で休みなしの勤務が続く悪循環に。新しい社員も入ってこない。冒頭の落書きはそんな折に出た。
顧客満足度調査を導入した。データを突きつけ、社内を説得するしかないと考えたからだ。
客にアンケートし、料理のおいしさや部屋の清潔感などを3点からマイナス3点までの7段階で評価してもらう。「まずい」という評価が続けば、ベテラン調理人も考え直さざるを得ない。
結局はこれが、顧客のニーズを的確につかみ、サービスに反映させる企業文化に結びつく。
今は採用時、約6千人から資料請求がある。3月にあった入社式。42人の新入社員が思い思いの色の絵の具を手につけ、巨大な紙に手形を押しつけた。人材で苦労したトップゆえの結束を確認する「儀式」なのだろう。
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