スペインのマドリード。パズル界で今、最も有名な日本人はサインを求める現地のファンに囲まれながら、「数独(すうどく)には言葉の壁がない」と実感していた。
1から9までの数字を、重複しないようにマスに入れるシンプルな論理パズル「数独」が、世界中で大人気だ。
この人が発行するパズル雑誌「パズル通信ニコリ」(季刊、公称3万部)のファンだったニュージーランド人が、04年秋、英国の新聞「タイムズ」に自作を売り込んだのがきっかけだ。05年から人気は、世界中に波及した。
日本にも、逆輸入のような形でブームが広がった。本の在庫には注文が殺到し、携帯ゲーム機のソフトにまで登場した。
「KARAOKE」と同様に世界の共通語になりつつある「SUDOKU」。その名付け親でもある。使用する数字は常にひとけた、つまり独り身。「数字は独身に限る」ということで「数独」なのだ。
大学を中退し、80年に友人2人と日本初のパズル誌を創刊した。数独との出合いは84年。米国のパズル誌で「ナンバープレース」という論理パズルを見つけた。仕事をほったらかしにするほど夢中になり、作り手の心理も探れるほど解きまくった。86年から誌面に載せたところ、読者に好評で定番となった。
「ブームがくるなんて予想もしてなかった。楽しいと思ったものを紹介してきただけ。今もその姿勢は変わらないし、会社を大きくするつもりもないよ」
数独ブームを、遊びの神様からの「ごほうび」という。
「パズルはお茶漬けみたいなもの。ステーキじゃない。軽い夜食をとるように、軽い気持ちでつきあってもらえたら」
数独に限らず、まちがい探しやクロスワードにしても、パズルはすべて手作り。ただ難しいだけのものは載せない。
現在、200媒体近くの日本の新聞や雑誌、30媒体ほどの海外メディアにパズルを提供している。ブームに乗って、コンピューターでランダムに作り出した数独を掲載するメディアもあるが、粗製乱造パズルは楽しくない。「制作・ニコリ」が、そのまま品質保証となり、海外では新聞選びのポイントにまでなっている。
6月下旬から7月にかけて、世界6カ国を回った。行く先々で取材を受け、スペインでは、新聞の1面を飾り、ハリウッドスター並みの扱いを受けた。
トルコのイスタンブールを訪ねた時のこと。筋ジストロフィーの学会で訪れていた日本人医師と偶然知り合った。医師は20年来のニコリの愛読者で、数独ファンという。「筋ジストロフィーの患者にとって、指1本で楽しむことができる数独は、大きな心の支えなんですよ」。思わぬところで感謝された。
「真剣に暇つぶしを欲している人がいる。遊びだけど、確かに人の糧になっている」
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