垣根状に植わったブドウの木の間にうずくまって、はさみで房の根元を切り、手元のかごにいれる。粒はさほど大きくはないが、肉厚、紺色のブドウが、かごにたまっていく。秋のやわらかい日差しをキャップでさえぎりながら、玉村豊男さんは気分よさそうに来訪者とことばをかわす。10月下旬、赤ワイン用のメルロー種の収穫日だ。
長野新幹線上田駅から車で約20分、南西に斜面が広がる標高850メートルの小高い丘に、ワイン用のブドウや西洋野菜をつくる1万坪(3万3千平方メートル)ほどの畑とワイン醸造所、レストランがある。玉村さんが独力で築いた小さな楽園、「たぶん日本で一番ちいさなワイナリー」というヴィラデストワイナリーだ。
「今日取ったブドウがワインとして飲めるのは再来年の春ですよ」。レストラン裏の醸造所に戻った玉村さんは上機嫌だ。スタッフ数人が、収穫したばかりのブドウを搾り機にかけ、大きな桶(おけ)につめていく。酵母を入れ3週間発酵させた後、オーク材の木樽(きだる)に移しかえ、14度に温度管理した貯蔵庫内に貯蔵する。来年夏、壜(びん)につめ、さらに半年寝かせる。樽や壜の中で、ワインは静かに熟成していく。
ブドウ栽培は日照、雨量、土壌に大きく左右される。日本は酸性の火山灰土壌が多く、この地も酸性が強い。かつて、宮城・石巻漁協から牡蠣(かき)の殻を大量に運び、粉砕して畑にまいて土壌の中和をはかった。品種の違いも小さくない。ワインは自然とのかかわりがとりわけ強い酒なのだ。玉村さんは「ワインづくりは時間と土の物語ですから」と表現する。
戦後ワインブームが何度かあった。ここ15年ほどは、海外高級ブランドのうんちくを傾ける人が増えた一方、国産品は、生食用ブドウの不適格品で作ったり、海外から輸入した濃縮果汁や安ワインを混ぜたりしたまがい物が横行した。粗製乱造がたたり、国産ワインの評判を落とした。
ここ数年、その反省から、ワイン専用ブドウの栽培から醸造まで一貫して手がける手作りワイナリーが増えてきた。ここもそうした新世代ワイナリーのひとつだ。
一昨年秋、ワイナリーを開設、年間3千本程度を出荷する。1本4500円、大人気で夏までに売り切れてしまう。もっと増やすため、ブドウ畑を広げている最中だ。来訪者がゆっくりとワイナリーツアーが楽しめるよう、小さくてもホテルができないか、とも夢想する。
「海外の高級ワインの知識を得るのもいいけど、ブドウ畑に立って風を感じ、見てさわって、それが数年後ワインになって飲む喜びはまた格別です」
田舎暮らし、スローライフの実践者としても著名な玉村さんは、ワイン事業家として、日本の風土にあったワインづくりに、ゆっくりと急ぐ。
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