――山岳ガイドへの思いが、原点にあるのですね
16歳のときに起こしたいと思ったビジネスはメーカーではなくて、山のガイドだったんです。それに喫茶店か何か、山の仲間が集まって山の楽しい話ができる、そういうイメージでした。結局、曲折を経て登山用具メーカーを設立したのですが、小売店や商社に勤めた経験が役に立ちました。
――そこで、自分たちが欲しいものを作ってきた
何を作ったら売れるかではなくて、必要としている人に求められるものを供給することが、メーカーの務めだと考えています。例えば、ネパールやチベットのような電源のないところでは、太陽光による充電器が欲しくなる。商品にするには3千とか4千とかまとまった数がいりますが、実際に必要とされるのは50や100かも知れない。それでも、10年かければ売り切ることができる。
――最初のヒットとなった中空繊維の寝袋も同じ発想で?
何個売れるからと作ったわけじゃなく、ぼくらと同じように、こういう寝袋が欲しいなと思っている人がいるかも知れない、というところから始めたわけです。もっとも、一方で大きなサイズのビジネスができているから、そういうこともできるのですが、工場泣かせの、多品種少量のロットの合わないものばかり作っています。
――メーカーにとどまらず、直営店も運営していますね
90年4月に1号店を大阪駅のショッピングモールに出したときは、大きな決断でした。アウトドア専門メーカーが家賃も高い目抜きの商店街に直営店を出すなんて、当時は常識的ではなかった。しかも、うちの商品を扱っていただいている店のすぐ近くでしたから。でも、モンベルというブランドを認知してもらえれば、新たな市場の開拓につながり、取引先の店も、うちの商品をメジャーな場所に出して売ってもらえるようになると考えたんです。
――製造から販売まで一貫する、アウトドア業界では珍しいスタイルではありませんか
ライバルと競うのは苦手で、自分の足もとを見て進む方向を確認するタイプです。人のまねをするとか、対抗するとか、そういうことは今まで、あまりやったことはないですね。
――顧客組織のモンベルクラブを経営の柱に据えています
不特定多数ではなく特定多数の顔の見えるお客さんと、双方向のコミュニケーションを図りたい。お客さんと一緒に山に登って、あの岩角を越えるとこんな景色が見えるという感動を共有したい。そんな、ガイドをやりたかった思いとつながっています。作った物を売って喜ぶだけじゃなく、買ったお客さんの喜ぶ顔も見たいと。欲が深いかもわかりませんね。
――そういうビジネスモデルは手探りで?
まったく一からです。山登りと一緒で、どうやったら安全に登れるか、自分で工夫するのが楽しい。クラブをつくって20年ほどになりますが、当初はサービスも手作りの雑誌やカタログを送る程度でした。それでも、年会費1,500円を毎年払い続けて、20年間会員を続けてくれた方が65人、10年間だと数千人いらっしゃいます。
――会社設立時に現在の規模を予想していましたか
当時、登山にかかわる市場の規模は500億円くらいと言われていました。30年後には、その2割、100億円くらいのビジネスはできるだろうと思っていました。山という限られたマーケットの中で試算した数字で、市場の拡大や物価の上昇もあり、結果として200億円になった。まんざら間違ってなかったなという感じです。
――社会貢献活動にも熱心ですね
アウトドアは自然の中での暮らしそのもの。震災などの非常時にすぐ役立つ商品を扱っているので、自然保護や被災地救援はお客さんから期待されていることでもあります。単にお金を寄付するとかではなくて、我々にできる範囲で社会とかかわり合っていきたい。少し正直にいうと、そういう方向に引っ張り出されてきたという面もあります、結果としてね。
――登山者の高齢化が言われますが、来年以降、団塊世代の大量リタイアが見込まれます
ぼく自身が47年生まれで、自分が求めていることは団塊の世代と共有できる部分がたくさんあるとは思います。でも、ビジネスチャンスが大きくなるとは考えていません。うちの顧客の年齢層はきわめて幅広いんです。中高年層に限定すると、将来がないですよね。
――ではどんな方向を
ぼく自身は、小中、高校生ら若年層の野外教育に、興味と関心をもってかかわるつもりです。いま子どもたちを取り巻く環境が非常に悪い中で、自然が教えてくれることはいっぱいあります。知恵とか勇気とか、やさしさとか。それこそ子どもたちに身につけてもらいたいと思うんです。
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