
恋は厄介だ。運命の人だと思った相手が、同じように自分を好いてくれるとは限らない。実ってもなかなか長続きしない。生死を左右することさえある。なぜ、こんな面倒な気持ちに振り回されるのか。そう、「人はなぜ恋に落ちるのか」。
その謎を人類学の見地から30年余りにわたって研究してきた「恋愛科学」の第一人者だ。脳内をスキャンして特定の化学物質と恋愛感情にかかわりがあることを発見した。
さらに、この脳内物質に注目して人間の行動を分析し、性格を四つに分けて、それぞれの相性や恋愛傾向を探る方法を恋愛・結婚のネットサービス「マッチ・ドットコム」の依頼で調査し、著作で発表した。「私は何を相手に求め、相手は何を私に求めているか」を科学的に示し、カップルのマッチングに役立てようとしている。
「伝統的で堅実な『建設型』の人は、脳内のセロトニンが多い。日本人に一番多いタイプです」。6月、フィッシャーさんは同社が東京・中目黒で開いた婚活パーティー会場で参加者に呼びかけた。
会場では、フィッシャーさんが開発した性格診断テストを事前に受けた男女100人の参加者たちが四つのグループに分けられた。
最初は所在なさげだった参加者が打ち解けたのは、グループごとにケーキのデコレーションを競うコンテストのときだ。
論理的で分析を好むという「指導型」グループは、静かに等間隔で果物やクリームで飾っていく。人との和を大事にする「交渉型」は笑顔をケーキの中心に描いた。正統派のデコレーションを作り上げた「建設型」の横で、好奇心旺盛でリスクをいとわない「冒険型」は、テーブルにあった真っ赤なバラのブーケをケーキの真ん中に刺して完成させた。
「こんなに各型の傾向が顕著に出るなんて私も驚いた」とフィッシャーさんは興奮気味だ。
恋愛のメカニズムを解明しようという研究は、フィッシャーさんを中心にニューヨーク大の神経科学センターで全米3大学の共同プロジェクトとして96年から始まった。
fMRI(機能的磁気共鳴断層撮影装置)でカップルの脳内を調べると、興味深い現象が見られるという。熱烈に愛し合っているどのカップルも、脳の共通する場所が激しく活動しているのだ。しかも、そこは感情に関係する比較的新しい部分ではなく、もっと奥深く、すべての脊椎(せきつい)動物に共通する原始的な脳の分野だった。
「つまり恋は感じたり考えたりするものではなく、抑えきれない衝動といえるのです」
この「衝動」とどう付き合うのか。恋は喜び、共感、無私といったプラスの感情も生むが、嫉妬(しっと)、執着、憎しみも生む。己を知り、相手を理解して違いを認めることで、いたずらに感情の海におぼれることを避けられるのなら、それに越したことはない。
でも、「私がどうしてこの人を好きになったか」なんて全部わかってしまったら、何だか味気なくないだろうか。
「まだ全体の絵は見えてないですよ」。いまや婚活市場をも支える米国の「ロマンスの女神」はほほえむ。「恋愛にはさらに、いろいろな不思議が潜んでいるんです」

米国・ニューヨークで双子のローナさんとともに生まれる。ニューヨーク大で人類学を専攻。卒業後、コロラド大で修士・博士号を取得。ニューヨークのアメリカ自然史博物館人類学部門研究員を経て、現在はラトガース大研究教授。「マッチ・ドットコム」チーフサイエンスアドバイザー。93年に発表した著書「愛はなぜ終わるのか――結婚・不倫・離婚の自然史」(草思社)では「4年目離婚説」が大きな話題に。



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