
右目が青、左目が赤の3D眼鏡をかけた医学生らの前で、スクリーンに心臓や肺、血管の立体画像が映し出される。それらをパソコン操作でくるくる回すと、血管や臓器の位置関係が手に取るようにわかる。会場が大きくどよめいた。
「実際のCTデータから作った立体画像です。一本一本の血管がどのように絡んでいるかもひと目でわかりますね」
東京都内で2010年6月、医学部生や看護学生らを対象に開かれた講演会で、ITの医療への活用について語った一コマだ。
アップルのタブレット型情報端末「iPad(アイパッド)」が発売された5月末には、iPadを手術室に持ち込み、CT画像を映しながら手術を進める姿がテレビ番組で紹介された。
帝京大医学部を卒業。付属病院で勤務した後、2004年に千葉・房総半島の病院に異動した。同じ地域の他の病院も拠点にしながら往診などに駆け回るうち、痛感したのは都会と地域の設備の差だった。特に画像処理システムの違いが歴然。導入しようにも、ソフトだけで100万円以上かかる。
何とかしなければと探して見つけたのが、医療用画像処理プログラム「OsiriX(オザイリクス)」。アップルのパソコン・マッキントッシュ(マック)用に開発され、誰でも無料で利用できるオープンソースソフトだ。CTで撮影した体内の画像データを立体化したり、画面上で長さや面積が測れたりして性能は高い。「まるでお腹(なか)の中を直(じか)に見るように様子がわかる。これだ、と思いました」
画像や機器の活用法は独創的だ。腹部手術の際、露出した患者のお腹に、プロジェクターを使って本人の腹部内CT画像を投影する。臓器や患部の位置をお腹の上から確認でき、手術個所の正確なイメージを把握できる。お腹に小さな穴を数カ所あけ、そこから腹腔鏡(内視鏡の一種)を入れて行う手術では、特に効果が大きかった。
手術室内にも大型ディスプレーを置き、術中も必要に応じて確認できるようにした。最初、表示を変えるときはパソコンの前に行って操作していたが、手術の妨げになる。そこで、動きや位置を検出するセンサーを内蔵した家電製品用のリモコンを利用、表示する画像の角度や切り口を直感的なリモコン操作で変えられるようにした。
それがいま、iPadに代わった。手術中、ディスプレーを見るにはいちいち顔を上に向けなければならない。iPadを横に置いておけば、最小限の視線の移動で画像を確認できる。
リモコンもiPadも、同じ性能のものを病院用だけに開発したら、とても高価になったはずだ。大衆向けの大量生産によって安くなった高性能な機器を、先入観にとらわれず、「現場の知恵」で活用してきた。
オザイリクスの日本での導入やサポートを行うニュートン・グラフィックス(札幌市)の菅野忠博社長は「従来、CT画像の3D化は医師が放射線技師らに依頼していたが、十分な意思の疎通がなければ役に立つ画像にならない。今は医師自身が望む画像をパソコンで作ることが可能になった。杉本さんはそれを実践している」と話す。
進歩し続けるコンピューターを駆使し、医療の「可視化」を強力に進めている。

東京・柴又生まれ。3〜4歳のころ、地元の幼稚園児一同と寅さんの映画に出たらしいが、よく覚えていない。1996年に帝京大医学部を卒業。専門は消化器内科・外科。ジュネーブ大が開発した医療用ソフト「オザイリクス」を04年に知り、開発チームに参加。08年、米スタンフォード大客員フェロー。09年に神戸大医学部消化器内科特命講師。「難しい物事をわかりやすく見えやすくして、人々に広がっていくのが好き。そうすれば彼らが先につないでくれる」と言う。「だからいまのプロジェクトが楽しくて、趣味や仕事を超えた存在なんです」



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