
東京・西蒲田の住宅地にある森山邸(2005年完成)は代表作の一つだ。約300平方メートルの敷地に計10個の直方体が不規則に置かれている。うち四つは施主の住居、残りは5世帯分の賃貸住宅。独立して庭にぽつんとあるのは施主用の浴室だ。「集合住宅」とはおよそ思えない。
「建物をバラバラにして配置した時に、これまでの集合住宅にはなかったものが現れたように感じた」と言う。路地に対して大きく窓を開き、小さな庭を介して近隣と緩くつながる。人や街、風や光を感じる暮らしが生まれた。
青森県の十和田市現代美術館(08年)の設計でも展示ごとに棟を分けた。高屋昌幸館長は「『さまよう感じ』との感想も聞く。アートに出合う驚き、喜びがある」。人口6万5千人余の都市で昨年度は約17万人を集めた。
師でもある妹島(せじま)和世さんと「SANAA(サナア)」という設計ユニットを組み、世界にも舞台を求める。オランダの劇場、ニューヨークの美術館、スイスの大学施設。フランスが誇る「ルーブル美術館」の分館の設計もコンペで勝ち取った。昨年は「(作品が)独特かつ感情を揺さぶる」などとして、建築界のノーベル賞と称される「プリツカー賞」を受けた。
「開かれた建築」が一貫した創作のキーワードだ。「人と人、建物、環境がいろんな関係を持ちうる、そういう場をつくりたい」。そうしてできた建築は、時に「民主的」と評される。美術館でも美の殿堂としてそびえ立つのではなく、光が差し込んで、子どもも楽しめる――そんな風景が生まれている。
建築評論家の五十嵐太郎・東北大大学院教授は「森山邸や十和田市現代美術館では、20世紀に建築家が共有した形式である直方体を用いながらも、まったく新しい空間を生み出している」と評価する。「海外での評価が高いのは、普遍性を獲得しているから」
創造を生み出すのは、徹底して考え抜く姿勢だ。森山邸の設計にあたっても、住宅としては「異常」とされる659もの試案を作り、2年かけて検討した。
環境、生活、建物の大きさ、配置、庭、窓、社会、人……。「当然」にとらわれず、すべてをゼロから再考し、膨大な図面と立体模型によって粘り強く確かめていく。連日連夜、オフはない。

1966年東京生まれ、川崎市育ち。兄も建築家の西沢大良さん。
高校で「理系なら建築」という進路指導を受け、横浜国立大へ。大学院修士課程を修了した90年、妹島和世さんの設計事務所に入る。95年に妹島さんとSANAAを、97年には個人事務所も設立。現在、横国大大学院の教授も務める。
99年、個人として初の住宅設計となった「ウィークエンドハウス」で建築家の登竜門とされる吉岡賞をいきなり受ける。妹島さんとの作品では、98年に岐阜県の学校施設の設計で、国内で最も権威ある「日本建築学会賞」、2004年にベネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞(最高賞)。
かつては結構短気だったが、妹島さんによると「昔より穏やかになった。非常に感情豊かで、感覚的でもある。そしてとても自由な人です」。
愛車はイタリア製の1978年式「アルファロメオ」。「運転しやすい車より、運転したくなる車」。目指す建築と一緒だ。



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