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「どらく編集委員」通信

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「ピンクフロイド」との出会い どらく編集委員 松任谷 正隆さん

大学生のころ、一緒にやっていたバンド仲間たちに誘われて箱根アフロディーテというところにいった。何かコンサートがあるということだけは聞いていたのだが、何があるのかは知らなかった。どこまで車で行き、どこから歩いたのか、もうすっかり忘れてしまった。とにかく歩いても歩いてもたどり着かなかったことだけ覚えている。

僕の記憶によると、アフロディーテというところは自然公園みたいなところで、いくつかの広場を原生林がつないでいるようなそんな感じの場所だったんじゃないか。歩き始めてしばらくしてから聴こえ始めた音は、やたら攻撃的でけたたましく静寂を汚しているようで、耐えられなくなって引き返そうと思ったのだが、一人で引き返したら絶対迷子になると思ったのであきらめてみんなについていった。

ようやくたどり着いた僕の目に飛び込んできたのは、「成毛茂バンド」のやたら挑発的な演奏だった。ドラムはつのだひろ、そしてベースは高中正義だった。つのだひろがタムタムのあるべき場所に大きなバスタムを2個つけていたのが印象的だった。うるさかったこと以外で覚えているのはそれだけだ。彼らが引っ込むと司会者が出てきた。これまた確かではないのだが、糸井五郎さんか高崎一郎さんだった…と思う。彼が紹介したのは「佐藤允彦バンド」だった。「世界初、モーグシンセサイザーの魅力!!」と紹介した。何だろう、モーグシンセサイザーって?

僕は演奏が終わる最後までそれがなんだかわからなかった。きっとジャズのスタイルのことだろう、くらいに思っていた。音楽の内容はやっぱり僕には合わなかった。あのときの音はすっかり抹殺してしまっていて、やっぱり何も覚えていない。

彼らの演奏が終わったあと、ひとしきり拍手がやむと、遠くのもうひとつのステージからかすかに女の人の声が聴こえてきた。ちりめんのようなビブラートが特徴的で、実はそれがこのコンサートの中で一番覚えている音だ。バッフィー・セントメリー。「サークル・ゲーム」だった。

一人音のほうに歩いていくと、そっちの広場はさっきまでの広場よりもずっと大きく、どうやらこっちがメインステージらしかった。でも客は・・・たいしていなかったかもしれない。というよりも醒(さ)めていた。いや、醒めて見えた。おざなりのようなアンコールの拍手。媚をまったく売らないような彼女の態度が妙にまぶしかった。それからどれくらい経ったんだろう。延々次のバンドは出てこなかった。機材のトラブルか、そんなアナウンスがあったように記憶している。寝ちゃおうかな、と思ってごろっと芝生に横になっていると拍手がわき起こった。どうやら出演者が出てきたらしい。静かに静かに聴いたことのないロングトーンの音が延々と続いた。霧が急に辺りを包んだ。もちろん演出ではない。自然の演出だ。そう、そこから始まったこれまた聴いたこともない音楽。それが「ピンクフロイド」だった。

(2007.01.29)

松任谷 正隆

プロフィール

松任谷 正隆(まつとうや・まさたか)

音楽プロデューサー

1951 年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。

20歳のころよりプロとしてスタジオ活動を開始し、数多くのセッションに参加。その後、アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品を手掛ける。

1986年に設立した「マイカ音楽研究所」では、自ら校長として後進の育成にも力を注いでいる。長年に亘り「カーグラフィックTV」でナビゲーターを務めるなどモータージャーナリストとしても活躍。日本カーオブザイヤー選考委員。

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