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「どらく編集委員」通信

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喜びの世界 どらく編集委員 松任谷 正隆さん

またまた昔のコンサートの話を。今回はスリードッグナイト。チャック・ネグロン、コリー・ウェルズ、ダニー・ハットンというソウルフルな3人のボーカリストを擁(よう)する70年代のポップロックグループである。はて、このグループのことを何で知ったのか…。誰かから聞いたのか、それともラジオでかかっていてファンになったのか、いや、何も知らずにコンサートのチケットだけもらって行ったのかもしれない。

さすがに30年以上前の記憶は剥(は)げ落ちてきている。そこらへんは剥げ落ちていても、コンサートが始まった瞬間からアンコールにいたるまでの記憶ははっきりしている。

「これだ!僕の求めていたのは!」と思った。鳥肌が立つほど彼らはスターであり、エンターテイナーであり、そしてショーは洗練されていた。当時のロックが持つ薬臭さや暗さ、妙なメッセージなんて微塵も感じさせない明るく、パワフルなサウンドは聴き慣れないくらい大きな音量でも心地よかった。

ローラニーロの名曲「Ili'scoming」での3人のハーモニーはいまだに僕の中のベストオブザベストかもしれない。アカペラで彼らがハモった瞬間、武道館がびりびりと震えるのがわかったほどだ。ショーの中盤にはフロイド・スニードのドラムソロがお約束みたいにあって、スティックを投げて途中から素手でたたくのもお約束。でも、わかっているのにかっこよかったんだなあ。そうそう、ちょっと太り気味のマイク・オールサップのギターもよかったし、ジミー・グリーンスプーンのオルガンも渋かった。今聴きなおすと、たいしたことはやってないのによかったのは、多分見せていたからだ。全員が一丸となってショーをやっていたのである。そういえば2回目に見に行ったとき、途中でリードボーカル3人が全員ピンクのだぼだぼスーツにリーゼントのカツラをかぶって、エルビスのメドレーをやったのだけれど、あれもものすごく印象的だった。ロックミュージシャンたちがこんなことをやってしまうんだ、と。

さらにゲストミュージシャンの確か「スキップコンテ」という名前だったと記憶しているが、彼のシンセソロのパートを僕は、後にかみさんのコンサートで真似しようとして大失敗したのを覚えている。そうそう、何もかもが真似したくなるようなことばかり。そして絶対に真似が出来ないようなものばかり。これだけ打ちのめされれば充分じゃないだろうか。スリードッグナイト。その明るさとは裏腹に私生活ではかなり荒んでいたと聞く。実は薬漬けだったのは彼らのほうだったらしい。

僕がR&Bのほうに夢中になっているうちに、彼らはひっそりと解散をしていた。最近、当時のアナログ盤を持ち出してきて聴くのだけれど、このジャケットを見るたびに、あのころ、毎日のようにこのアルバムを聞いていたことを思い出す。僕の私生活のほうもあまりうまくいっていなくて、暗黒の時代だった僕を救ってくれたアルバム。そして、ショーを作る上では今でもお手本になっているのが、このスリードッグナイトなのである。

(2007.02.26)

松任谷 正隆

プロフィール

松任谷 正隆(まつとうや・まさたか)

音楽プロデューサー

1951 年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。

20歳のころよりプロとしてスタジオ活動を開始し、数多くのセッションに参加。その後、アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品を手掛ける。

1986年に設立した「マイカ音楽研究所」では、自ら校長として後進の育成にも力を注いでいる。長年に亘り「カーグラフィックTV」でナビゲーターを務めるなどモータージャーナリストとしても活躍。日本カーオブザイヤー選考委員。

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