
今回はサーカスの話。シルク・ド・ソレイユが日本に持ち込んだ最初の作品は「ファシナシオン」だったという記憶がある。あれは1992年くらいのことだったろうか。続けざまにシルクは「サルティンバンコ」を持ち込んで、これが彼らを大いに認知させるにいたった。
彼らの作品はそれまでの子供向けの明るく陽気なサーカスとはまったく志向の違うもので、どちらかといえばシュールな衣装、シュールな選曲、そして暗い照明などからも分かるように大人をターゲットにしたものだった。
サーカスにあまり造詣(ぞうけい)の深くなかった日本人にとって、これはどういうものなのか、最初カテゴライズに困ったはずだ。もちろん僕もそのひとり。得も言われぬ不思議な感覚で帰途についたことを覚えている。その後、彼らは「アレグリア」再び「サルティンバンコ2000」さらに「キダム」「アレグリア2」、そして「ドラリオン」と毎年のようにツアープログラムを持ち込んでいるのだが、個人的には「アレグリア」がベストだと思っている。
平たく言えばどのショーも似たようなものではあるが、アクトと流れのバランスがいいのである。ただ、興味を持ち始めてから、ツアーではない常設小屋での作品をラスベガスでいくつか見るようになって、ツアーはツアーでしかないことが分かった。専用のステージを持ったショーはさすがに専用設計だけあってそこでしか出来ないアクトがふんだんに盛り込まれていたからだ。これをツアー用に設計しなおすのはさすがに無理だと思った。
その際たるものはホテルベラッジオの「O(オー)」かもしれない。プールの深さだけでも5メートル近く、トラスには回転するリング式の吊(つ)りが備わる。ハイライトは高さ10メートル近くからの飛込みである。これが巧妙な演出で実にショッキングだ。
シルク・ド・ソレイユからメインの演出家であるフランコ・ドラゴーヌが抜けたのは数年前のこと。それ以来、彼らはそれまでのトーンと一種違ったものを探り始めている。ラスベガスで上演中の「ズーマニティ」や「LOVE」などは今までのイメージから脱皮しようとする努力が見て取れる。だが、それがうまくいっているかどうかはちょっと疑問だ。やはり彼らは例えワンパターンであっても、あの暗い、ヨーロッパ的なシュールさこそが命、とする声も多い。そういう意味では個人的にはちょっと迷走しているようにも思える。最近では「ドラリオン」日本公演で演者たちの質が落ちたことに少々がっかりさせられた。世界を股にかけるこのくらいの組織になると、演者たちの育成も大変なのだろう。決して出演料も高くはないと聞く。そのなかでこれからどういったものを作り続けていくのか。観客としてではない立場からの興味も尽きない。
(2007.06.25)

松任谷 正隆(まつとうや・まさたか)
音楽プロデューサー
1951 年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。
20歳のころよりプロとしてスタジオ活動を開始し、数多くのセッションに参加。その後、アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品を手掛ける。
1986年に設立した「マイカ音楽研究所」では、自ら校長として後進の育成にも力を注いでいる。長年に亘り「カーグラフィックTV」でナビゲーターを務めるなどモータージャーナリストとしても活躍。日本カーオブザイヤー選考委員。

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