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寒川さんに行くようになって30年くらいになる。寒川さん……寒川神社である。最初のきっかけは家を作るときだった。それまで賃貸だった家は契約期間が決まっていて、どうしても年回りの悪いとき、僕たちの場合、天中殺のときに家を建てざるをえず、どの本を見てもそれは悪いことであり、絶対にやめたほうがいいとあり、そうはいっても……というときに友人が教えてくれたのであった。
神社って神社だろう? それってただの神頼みじゃないか……と思ったものの、神頼みで実際に効果がないのかどうかはわからない。ないよりはまし、ましならそれでよし、といった感じで行ったのが最初である。大勢のお祓(はら)いに来ている人たちと一緒に白衣を着せられて神殿の前に正座させられて、人よりも座高が高いせいか、2階建てのバスに座った感覚で辺りを見回しながら、足のはれと戦いながら、早く祈祷が終わるのを待っていた記憶がある。そう、あの頃は神殿はまだ椅子じゃなかったんだよなあ。つらかった……なんて話はどうでもいい。
その後、家は建ちあがり、不安を抱えながらも1年がたち、2年がたち、何事もないことがわかってくると、今度は海外旅行に行く前にもお祓いに行くようになった。飛行機が死ぬほど嫌いだからである。そして、これまた、飛行機嫌いが克服できてくるのを確認すると、寒川さん参りはうちの恒例行事の一つになった。
神頼みなんてことがどこまで本当なのかわからない。なんてこと書くと本当は罰当たりなのかもしれない。でも、どこかうっすらと信じることが出来ると、これはこれで勇気がわく。自己催眠みたいなものだ、と思いつつ、でもやっぱり、どこかで信じているんだよなあ。これも宗教のひとつと言えるんだろうか。だとしたら、人間に宗教はやっぱり必要なのかもしれない。でもどっぷりはいやだ。このくらい、あっさりしているのがいい。
さて、今年も年始のお祓いを2月の頭に行ってきた。なぜ1月ではないのか、と言われれば、それは込んでいるからである。節分までに行けばそれでいい、と勝手に決めている。とはいえ、今年の2月は込んでいて参った。いつもの倍時間がかかった。とはいえ、今年はやっぱりはずすことは出来ない。なぜなら、僕は今年前厄で、来年最後の厄年を迎えるからである。最後の厄年か……。厄、と聞くだけで「うっ……」となる。びびる。
何と精神力の弱い僕。でも、僕と同年代の人たちがみんな「うっ……」となる年回りだと思うと、ちょっとだけ気が楽になる。厄の皆さん、それぞれの方法で厄を乗り切ろうではないか。
この爪(つめ)切りは10年以上前に友人から誕生祝でもらいました。なんだよ、爪切りかよ、と思いました。だって、そうでしょう? プレゼントとしてはあまりにありがたみのない、色気のないプレゼントだ。しかも、普通の爪切りを使い慣れている身には、あまりに原始的で使いにくそうだ。
とはいえ、もらったからには使おうと思った。いや、違うな。使っていた爪切りがだめになったので、仕方なくこれに切り替えたんだった。最初はやっぱりいやでしたね。とがっているから怖い。角度を間違えると深爪しそうだ。恐る恐る使い始めたことを思い出します。
けれど、これ、後で調べてみると結構な値段する。もちろん、いい材料を使って一つ一つ丁寧に作ってあるからでしょう。それゆえに、爪を切るときのパチッという感覚が普通の安物に比べると全然違う。鉈(なた)と剃刀(かみそり)と同じくらい切れ味が違うんです。だから、気づいたらもうこれのとりこになっていました。もう普通の爪切りは使えません。ちょっとオーバーですが……。
このあいだ、オーバーホールに出しているあいだに(何とオーバーホールも出来るのです!)、もうひとつ、大きいサイズのやつを買いました。これで大小ふたつになったわけですが、どちらも大切な僕の道具に変わりはありません。もう一生、爪切りを買うことはないと思います。

(2010.02.22)
松任谷 正隆(まつとうや・まさたか)
音楽プロデューサー
1951年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。
20歳のころよりプロとしてスタジオ活動を開始し、数多くのセッションに参加。その後、アレンジャー、プロデューサーとして多くのアーティストの作品を手掛ける。
1986年に設立した「マイカ音楽研究所」では、自ら校長として後進の育成にも力を注いでいる。長年に亘り「カーグラフィックTV」でナビゲーターを務めるなどモータージャーナリストとしても活躍。日本カーオブザイヤー選考委員。

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