
パリのアーティストには料理好きが高じて、店をひらく人がよくいる。リュック・ベッソンはその代表だ。ぼくも先日、パリへ取材にいった折、そういう人のお店にはいった。ガイドブックや雑誌に紹介されているレストランは当たったためしがないけれど、いつも同じところでは能がないので、あまり期待せずに選んだ一軒がレカイユ・ドゥ・ラ・フォンテーヌだった。フランスの名優ジェラール・ドパルデューが牡蠣(かき)好きが高じて開いたシーフード・レストランだ。ドパルデューの食通ぶりは有名で、「MA CUISINE」という料理本を出したり、自ら製造・販売したワイン「CHATEAU DE TIGNE」をモスクワまで売り込みにいったこともある。
案内された2階は、ドパルデューのプライベートな写真がところ狭しと飾ってあり、自宅のリビングに招かれたかのようだ。ぼくがたのんだ前菜の「イワシの酢漬け」は、四角い皿にイワシ3匹が並んでいるだけの実にシンプルな料理だったが、素材が新鮮でなかなかイケた。メインの「ヒメジのから揚げ」も付け合せがほとんどなく、しお、こしょうして揚げただけという感じだったが、十分満足した。あれこれ手を加えるより素材の良さで勝負しているあたりが、食べつくした者が辿りついた料理という感じで気に入った。
次回は絶対牡蠣のシーズンに来ようと心に決めて帰りの飛行機に乗り込んだ。一眠りして起きると、「ラスト・ホリデイ」という映画をやっていた。主人公が余命数カ月と診断され、全財産使い果たそうとスイスの豪華ホテルで豪遊する話だ。この主人公がまたよく食べること食べること。6人前ぐらいをペロリとたいらげるのでシェフも驚いて挨拶(あいさつ)にくるほどだ。大写しになったその顔をみて僕も驚いた。ジェラール・ドパルデューその人ではないか。さすが、極めた人だけある。映画でも、シェフを演じていた!
(2006.08.28)

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)
1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

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