
振り込め詐欺の被害が拡大している。わが業界も例外ではないらしく、私が所属する日本文藝家協会でも注意を呼びかけている。協会機関紙によると、最近は「息子さん(だんなさん)が痴漢行為をした」「会社で使い込みをして穴埋めをしなければならない」などと賠償金や示談金を振り込ませる手口がでてきた。また新しい傾向として、98万円と細かく指定してくるケースが目立つようになってきている。これは100万円を超えると金融機関の警戒が厳しくなるためだそうだ。
昨年の被害額128億円のうち圧倒的に被害者が多いのが東京で、全体の25%の36億円。これは大阪の8285万円の30倍以上で、どうやら「都民はお人よし」ということらしい。とにかく、一度電話を切った後で、必ず本人に連絡を取り、事実を確認すること。そして事実が確認できないときは、絶対に振り込まないこと。ナルホド、ナルホド。
・・・っと、この先を読んでたまげてしまった。
「小説家として『騙される』自分を承知しながら詐欺犯に応対する以外は、これを参考に、くれぐれもご注意いただきますように」!!!さすが作家の機関紙である。身を挺(てい)して取材を極めるということか。
しかし、私はもっとすごい取材をやった人を知っている。「失踪日記」で今年の手塚治虫文化賞を受賞した吾妻ひでお先生だ。まんが家のいしかわじゅんさん曰(いわ)く、「しばらく見ない間どこへ行っていたのかたずねたら、ホームレスをやっていたという。結果的に『失踪日記』のための取材になった」。これぞ究極の取材旅行だ。
(2006.10.30)

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)
1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

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