
やっぱり自然はすごい、と感じる年齢になると、農漁業が気になる。岐阜の山のなかでトコロテンを生産する現場を見て、海のものも山でつくられると知り、いよいよ興味が湧いた。
この2月、長野の山の中に「スノーキャロット」を掘りにいく体験をしたが、これもまたすばらしかった。江口宗晴さんという達人が、豪雪地帯の雪を味方につける農業をめざした。苦難の末に完成したのが、スノーキャロットだった。ニンジンを一冬掘らずに地面に植えておくのだ。もちろん冬に2メートルもの雪が積もる。ところがニンジンは雪の下でがんばり、糖分を蓄え、驚くほど甘くなる。雪を掘り、小さくてきれいなスノーキャロットが出てくると、雪に突っ込んで泥を落とし、生で丸かじりだ。実にうまい。ジュースにすると、体が泣いて喜んだ。これで、豪雪地域の冬でも収穫があがるようになった。
江口さんご本人も、ニンジンの赤さそっくりの、熱い人だった。
(2007.05.28)

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)
1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

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