
いよいよ還暦を迎える。これを機会になにか新しい挑戦をしてみようと思い、ダイビングのライセンスを取得することにした。もう40年も南の磯に通っているが、これまでは魚の採集を行うため素潜り一筋だった。そこで、老齢になった記念に、採集から観察に切り替え、一歩だけ道を極めたくなったのだ。
ダイビングは安全を確保するスポーツだから、高齢者には健康チェックが課せられる。でも、ここ6年、健康診断などしたことがなく、自分の健康状態をまったく知らない事実が、いきなり発覚してしまった。ダイビングするなら、風邪をひいてもいけない、と厳しいのだ。なんとか学科をクリアし、実際に海でトレーニングが始まると、自分でも歯がゆくなるほどに覚えが悪い。若いカップルはすぐに中性浮力を獲得するのだが、こっちは急に浮いたり沈んだり。浮上の際にも息を止めてしまう。耳抜きもできない。これじゃぁ、深場だと事故死ですよ、とインストラクターにからかわれながらも、3本ダイブを修了した。
まだ若いことを証明するためにはじめたつもりが、かえって老齢を実感する結果になったとはいえ、それでも3ダイブめには水中カメラを写せるようになった。気がつくと水深7mを超えるあたりで泳ぎまわっていた。久しぶりに、うれしい! 聞けば、60歳以上のダイバー志望者が急増しているという。わたしのあとも、10人の老齢者が集団で講習を受けに来るとのこと。団塊世代は、無鉄砲な挑戦精神だけが取柄だ。水中への挑戦は健康に気を配る慎重さも習慣づけられるから、たったひとつの取柄にも磨きをかけられそうだ。
(2007.06.25)

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)
1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

※当サイトの推奨ブラウザは、Windows Internet Explorer6.0以上、Netscape7.0以上、Firefox 1.0以上、Macintosh Safari 1.0以上となります。
Copyright The Asahi Shimbun Company. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
どらくに掲載の記事・写真の無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。
©朝日新聞社
無断複製転載を禁じます。すべての内容は日本の著作権法並びに国際条約により保護されています。