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「どらく編集委員」通信

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成熟させない理由? どらく編集委員 荒俣 宏さん

このところ宮崎や宮古島産の完熟マンゴーを食べる機会がふえた。ご存じのように、このマンゴーは完熟して自然に樹から落ちるまでもぎ取らない。落ちてもいいように予めネットがかぶせてある。だから、買った直後に食べてもじつに甘いのだ。

ふつうのマンゴーを店で買うと、食べごろは3日あとですよ、などと注意される。でも、マンゴー好きなので待てないから、すぐにかぶりついてしまう。結果、甘味のすくない果実にがっかりすることになる。最近はイチゴもモモも、メロンも早出しで店に並ぶせいか、昔のように甘いのに当たることが少なくなった。数日置いておいても、昔のような甘味は得られない。つまり、まだ熟さないうちに店頭に出すほうが流通などの便宜上、都合がいいのだろう。

それで思い出すことがある。40年以上前に見た連続テレビドラマに、『若者たち』というのがあった。田中邦衛が今の『北の国から』を彷彿させる役どころで出演していた。そのなかに「スズランを刈る男」という一話があった。東京に出ようとするボクサー志望の青年が旅費を工面するために、咲いたスズランを一晩かけて刈り、市場へもっていくのだが、咲いたスズランは賞品にならないからと引き取ってもらえない。青年は夢を諦める。

そのドラマのことを、まだ甘くない果物を口にするたびに思い出す。でも、完熟マンゴーがそのセオリーを覆した。妻の実家がある松本にも、ブドウを完熟状態で出荷してくれる店があって、ここのはほんとうに甘いのだ。熟すことを大切にする気風はまだ残っている。

(2007.07.30)

荒俣 宏

プロフィール

荒俣 宏 (あらまた・ひろし)

1947年生まれ。慶応大法学部卒。博物学者であり、小説家・翻訳家。「世界大博物図鑑 第2巻 魚類」でサントリー学芸賞。ビブロマニア(書籍蒐集マニア)としても有名。ベストセラー「ダ・ヴィンチ・コード」の解説を務めた。

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